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「吉野屋の牛丼ってさ。時々すごく食べたくならない?」
ある女友達にそう訊いたところ、
「ならない」
あっさりと答えられてしまった。あっそ、失礼しました。
「だって私、吉野屋って行ったことないもん」
それはそれは。さぞかしお上品なお育ちだから、庶民の食べ物なんて口にする機会がないんでしょう。
「カウンターに座ってね、一人で食べるってできないのよ。どこを見ながら、どうやって食べていいかわからないの。でも、誰かが一緒のときには、吉野屋に牛丼を食べに行ったりはしないでしょう?」
だから、彼女は無性にラーメンが食べたくなるときが困る、と言っていた。ラーメン屋って大抵カウンター式だしな。
そう言えば。
以前彼女とコンサートに行き、終わったあと時間があるから晩ごはんでも一緒に食べようということになった。
「私、ラーメンがいい!」
ラーメンなんていつでも食べられるじゃんと私は思ったが、一人暮らしの彼女にとっては、誰かが一緒にいるときがまさにラーメン屋に行くチャンスだったのだろう。
私なんて、ラーメン屋でも吉野屋でも平気で一人で入る。立ち食いそば屋だって平気だ。
でも、そのことがあってから、思い出しては人に訊いているのだけど、やっぱりカウンターは苦手という女性が多かった。あと、一人じゃ喫茶店にも入れないというような人も結構いた。
「おなかすいたなぁ、でもこれから家に帰って自炊するのも面倒くさいなぁというときはどうするの?」
その場合は、マクドナルドやスターバックスで軽く食べておいて、家に帰って改めて自分で作るか、もしくは総菜屋かコンビニでお弁当か何かを買って家で食べるという人が多かった。
女の人って不便なんだなぁ。
自分で作るのが面倒くさいやと思って、家の近所のラーメン屋に行き、餃子をつまみにビールを飲み、そのあとラーメンで締め、満足して帰ってくる及川である。それを友人に話したら、
「あんたはオヤジか」
そうあきれられたことがあったけど、私は特殊なことをしている気持ちはまったくない。むしろ、なぜ一人じゃラーメン屋にも行けないんだろうと不思議に思ってしまう。
来ているほかの客たちに、ジロジロ見られるようで恥ずかしいんだろうか。一人でかわいそうねぇと思われているようで、みじめな気持ちになるんだろうか。
そんなのただの自意識過剰に過ぎないと思うけどな。
反対に、私が一人で行けないのは、フレンチレストランとか懐石料理屋とかちょいと気張った店である。
吉野屋やラーメン屋なら食べたら終わり。箸を置いた瞬間に、
「お勘定!」
と言えるし、ほんとに食べるためだけにそこに行っているって感じで、非常にわかりやすい。
でも、フレンチや懐石のコースは、誰かと時間を共有するための一つの演出の場だと思うのだ。お喋りしたり見つめ合ってみたり、「人との間」とともに「皿の間」も楽しむ。だから、決して一人では行かない。
そういうところに逆に一人で出掛けて行き、
「もののわかった大人の楽しみ方だね」
なんて悦に入ってる知人もいたが、なんかちょっと違わないか?
私はむしろ、定食屋で一人ごはんを食べている人より、気取ったレストランで一人で食事している人の方が寂しく見えてしまう。
もちろん、家族で食卓を囲む風景が、いちばん幸せに見えるのは確かなんだけどさ。
ああでも。
私は、ラーメン屋や吉野屋に限らず、何でも一人で行けちゃうなぁ。映画も旅行も一人で行くことの方が多い。ショッピングに至っては、逆に人と一緒に行きたくない。
一人慣れをしていると言えば、きっとそうなんだろう。
独身で一人暮らしの女性が増えたせいか、定食屋に限らずカフェやショット・バーでも、一人で来ている女性をよく見掛けるようになった。
そんな中、携帯メールをやっているような人はまだ「お一人様初心者」で、経験を積んだ人たちは携帯などに頼らず、一人であることを楽しんでいるふうにも見える。余裕がある感じと言えばいいのだろうか。お一人様が実にさまになっている。
さまになりすぎちゃうのも、ちょっとせつないもんだが。
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