及川眠子HOME
Diary INDEX 2005


<<前のページ | 次のページ>>
2005年1月24日(月)
7.欲しい欲しいと泣く子かな

 トルコの子どもへのお土産は、ユニクロと100円ショップと決めている及川である。
 だって、それ以外のものはあんまり欲しがらないんだもん。わざわざ高い金を払って、喜ばないようなものを持っていく必要なんてないさ。

 100円ショップで買うのは、主に文房具。シャープペンとか色鉛筆とか、動物や食べ物のかたちをした消しゴムとか。トルコじゃ文房具用品は高いんだって。
 以前行ったときには、カラーペンを持っていった。1本のペンの中に24色の鉛筆の芯みたいなのが入っているやつだ。こんなもので喜んでくれるのだから、ほんとに助かる。第一かさばらないしさ。

 それを学校に持っていき、
「私のイェンゲは日本人でぇ、これは日本から買ってきてくれたものなのぉ」
 友達に思いっきりエバったらしい。

 ちなみに、「イェンゲ」というのは男兄弟や男友達の嫁のことを指す。実際には私は叔父の嫁(内縁だけど)に当たるわけだから、「ハラ」という呼び方が正しいのだが、ハラはどうしても「おばさん」というニュアンスが強くて、若くて可愛くてオシャレな及川には似つかわしい呼び方でないということで、イェンゲと呼ばれている。私がそう決めたわけだが。
 そう言えば。買い物をしているときに「テイゼ」(これもおばさんという意味)と売り子に呼びかけられ、
「てめー、誰に向かっておばさんと呼んどんじゃ! アブラ(お姉さんという意味)と呼ばんか!」
 相手をビビらせた及川である。
 説明がちと長くなった。

 で、学友たちは非常に羨ましがるわけだ。
「私にも貸して貸して!」
「ダメっ! 大事なものだから」
 100円で売ってるんだよ。日本の子どもにあげても、誰も喜ばないんだよ。
 みんなの嫉妬と羨望を感じながら、彼女はその日一日はクラスのスターである。

 しかし、中にはどうしてもあきらめきれない子どもがいるようで、このあいだトルコから電話がかかってきた。
「あなたが前に持ってきてくれたカラーペンだけど、あれと同じものを今度来るときにまた持ってきてくれないかな?」
 聞けば、学校に姪っ子を迎えに行ったとき、彼女の友達に泣きつかれたらしい。
「どうしても欲しい、絶対に欲しいってワンワン泣くんだよ。私にも同じものをちょうだいって」
 可愛らしいことである。

 しかし、待て。
 私はその子に会ったこともない。あなたはよく知っている子なのかと訊けば、全然知らないと言う。
 言ってみれば見知らぬ他人に対して、「お金を払うから買ってきてくれ」ではなく、「ちょうだい」と言ってしまうって何なんだ? たかが100円のものではあるけれど、金を払うのはあくまで私で、買いに行く手間とかを考えれば、迷惑なお願いと受け取られるかもしれないってことに気付かないんだろうか。

 もしこれが日本人であるなら、他人にそんなふうにねだったことが親にバレた時点で百叩きである。躾の悪い子と世間に言われても仕方がない。
「それって普通なのか?」
 そう聞いたら、子どもだから当たり前のことだと言われた。相変わらずトルコ人の物欲に関する価値観には戸惑うばかりである。

 って言うか、日本人ってあんまりものをねだったりしないしな。人の物を欲しがったり、人のことを羨ましがったりするのは、はしたないことだと刷り込まれている部分もある。
 また、日本には物があふれている。子どもたちだって、常にいろんな物を目にして与えられて目が肥えているから、生半可な物では心は揺らぎもしないだろう。ましてや、100円ショップのものなんて、欲しいと思った瞬間に自分のお小遣いで買えちゃうし。
 弟の息子や娘を見ていても、欲しがるものはモーニング娘。が着ているのと同じ服だとか、新作のゲームだとかである。

 結局、そのカラーペンは見つからなかった。
 以前買った店を含め何軒か回ってみたのだけど、もう製造していないのか、普通の色鉛筆しか置いてなかった。
 だってさ、あのカラーペンって明らかに使いづらそうだったもの。合理性を尊ぶ日本人にはあまり受け入れられなかったに違いない。
 こっちの方が断然使いやすいだろう。そう思って色鉛筆を買ったのだけど、きっとその子どもにとってはそういう問題じゃないんだろうなぁ。
 また泣かせてしまうことになるか。




 
最新情報 メール