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2005年1月17日(月)
5.もう若くないのは認めるけどさ

 更年期障害によるアレルギーのせいで、相変わらず病院に通い続けている及川である。
 私が行っているクリニックは、銀座のマツヤというデパートの近くにある。もう半年近くそこに通っている。

 しかし、今日。何をとち狂ったのか、
「私が行くクリニックは、三越の近く」
 そう思い込んで、銀座線に乗り込んだ。そして、銀座駅で降り、まっすぐ三越に向かい、さらに地下の食料品売り場から地上に出て、見覚えのない景色にぼーぜんと立ちつくしてしまった。

「ここじゃない…」
 確か、クリニックが入っているビルの1階には中華料理店があったはず。その隣は駐車場だったはず。
「あっ! 間違えたっ!」
 すぐに気付いた及川は、そのまま元来た道を戻り、再び地下鉄に乗り込んで、今度は日本橋の三越に行った。銀座線の三越前駅である。
 そして、電車を降り地上に出て、もっと見覚えのない景色にまたしてもぼーぜんとしてしまった。

「やっぱり銀座の三越の方だ!」
 今度はタクシーである。

 病院の予約時間にはもう間に合いそうにもない。そこで、少し遅れるという連絡をするとともに、受付のおねえさんに、
「今、日本橋の方からタクシーで向かっているんですが、どこを目印に降りればいちばん近いですかねぇ?」
 それとなく訊いてみた。
「マツヤの裏で降ろしてもらうのがいいと思いますが…」
 しまった、マツヤだった。それでようやく自分の勘違いに気付いたのだった。
 訊かれたおねえさんも不思議そうに、
「うちには何度かいらっしゃってますよね?」
「はいっ! 何度も行っていてわかってるんですけど、いつも自分の車で行くもんで…」
 答えになっていない答えである。

 ちなみに、及川は方向音痴ではない。方向音痴ではないのだが、基本的に道を覚えようとしないから、何度も行った場所を何度でも間違える。
 さらには、いつもすんなりと行けているのに、突然迷うことがある。ぐるぐると同じ道ばかりを回りながら、ついには頭にきて、
「着かないよ!」
 電話をかけて、相手に怒りまくるのである。
「眠子さん…、先々週来たじゃない」
 先々週は何の問題もなく来られても、今日ちゃんと到着するとは限らないのである。

 頭のどっかにぽっかり穴が開いていて、そこから記憶とか情報とかがだだ漏れしている感じがする。
 確かに、もう若くないのは認めるけどさ。あまりにも早いボケとしか言いようがない。って言うか、私って若い頃からそうだったんだよなぁ。

 そのくせ、どうでもいいようなことを、細部にわたって覚えていたりする。おまけに、めちゃくちゃ執念深い。
 私のことを、
「竹を割ったような、さっぱりとした性格」
 と言ってくれる人も結構いるのだが、本質はその逆。ねっとり、もっちり、しつこい人間なのである。死んだら絶対に地縛霊になるタイプだ。
 だって浮遊霊になっちゃったら、あちこちふらふらしているうちに、間違いなく道に迷っちゃうだろうからさ。そこでじとーっと待ちわびている地縛霊の方が、よけいなエネルギーを使わなくてすむしね。

 しかし、今日は自分の勘違いのお陰で、いらん出費になってしまった。小銭だけどよ。
 でもこうやって、日々小銭を道にばらまくように生きているんだろうなぁと思っちゃったよ。だから、お金も貯まらないんだろうなぁ。
 ぽたぽたといつも蛇口から水を垂らしている、私ってまるで古い流し台みたいな女じゃん。

 それとも、これも大殺界の仕業か? …なーんてね。(気にするな、及川!)




 
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