|
命令口調の人はきらいだと、前回のDairyに書いた。
きらいと言うよりはカンにさわるのだ。思わず机の下で握り拳を作ってしまう感じ、といった方がいいだろうか。
しかし時には、命令系の言い方が癖になっているというような人もいる。本人にはまったく悪気がない。ただの口癖である。
以前私がよく行っていた飲み屋の店主がそうで、たとえば、
「今近くにいるんだけど、まだ店を閉めないんだったら、ちょこっと寄ろうかな」
なんて思って電話をかけると、
「じゃあ寄りなさいよ」
という言い方をする。
「寄ってくださいよ」でも「寄ってもいいよ」でもなく、「…なさい」という命令調である。
その人は、特に親しい人に対してはいつもそういう言い方をする。だから、その人の命令調は親しさの裏返しでもあったりするわけなんだが、たとえわかっていても、私のような「人に命令されるくらいなら、死んだ方がまし」とまで思ってしまうような人間には通じない。
命令されたと感じたその瞬間に、心のシャッターは下りてしまう。
「やっぱり明日は朝早いからやめておくわ」
さすがに真っ正面から怒ることもできず、せめて「寄らない」という手段を取るだけである。
そのうち足が遠のいて、今ではすっかり行かなくなってしまったが。
また、別の店。ブティックなのだが、ここの店主も同じような物言いをする人で、
「あっらぁ 、よく似合うじゃない。これ買っときなさいよ」
命令調である。ほんとに、カンにさわるったらありゃしない。
金を払って買うのは私なんだ。客の私がなんでおまえにそんな言い方をされなきゃいけないんだと、ムカつく気持ちをこらえその店に行き続けるのもアホらしく、結局やっぱり行かなくなってしまった。
お客様は神様なのである。商売はうまくやらにゃいかんのである。
しかし、なくて七癖と言うくらいに人は個性を持っている。ものの言い方にも人それぞれの癖があり、地方独特のニュアンスがある。何気なく使っている言葉にも、人をムカつかせる要因が隠れていることが多々ある。
私の友人に、「バカじゃないの」という言葉が口癖の人がいる。彼女自身はまったく悪意はないのだが、
「このあいだバーゲンに行ったら、買い物熱が噴火しちゃって、20万円近く使っちゃったわよ 」
「…バカじゃないの!」
こう返されてしまうと、関西出身の私はもうムカついてムカついてムカついて、どうしようもなくなってしまう。
自分の金で欲しいものを買って何が悪いんじゃぁぁぁ、ととうとう握り拳を振りまわす始末。いつもの、机の下で拳をぷるぷるふるわせながら、それでも顔だけは微笑んでいる、なんてこともできなくなってしまう。
彼女は関東県出身者だから、私たち関西人が「アホぉ 」「このボケ!」は挨拶の代わりだと思うのと同じように「バカ」という言葉を使っているのだろう。
だけど、いくら関東圏に流れ着いたとは言え、魂までは変えられない及川である。相変わらず心が狭いなぁと自分で自分を罵りつつ、やっぱり疎遠になっていくのである。
また、人によっては琴線に触れるものが違うみたいだ。
「私ね、○○さんの返事の仕方がすっごくカンにさわるのよ」
もうずいぶん前のことだが、△△さんから言われたことがある。△△さんと○○さんは、私も共通の友人である。そして、○○さんは△△さんよりも私よりも年下である。
「彼女にたとえば何か頼むとするじゃない。そうするとね、いいですよ、って返事が返ってくるの。はい、でもなく、わかりました、でもなくて、いいですよ。その返事を聞くたびに、どうしてもムカついてしょうがなくなるの」
確かに○○さんは「いいですよ」という言い方を私にもする。だけど、私は△△さんに言われるまでまったく気にも留めていなかった。
それよりも。
まだケータイや子機が普及していなかった頃のことである。○○さんは電話を切るときに、受話器を叩きつけるようにして切る癖があった。私はそれがイヤでイヤでたまらず、いつも彼女に電話をするときは、絶対に自分の方が早く電話を切るようにしていた。
なくて七癖、なのである。
そういう私も、人の話を聞いているときに、「あ 」とか「ん 」とか実に気のない返事をするという癖がある。
あるとき、
「あんたのその返事の仕方がカンにさわるんだよっ!」
と思いっきり人に言われたことがあった。
それ以来、なるべく注意をしているつもりなのだが、やっぱり「あ〜」とか「ん〜」とか言っているみたいだ。
友人が去っていく原因は、ここにもあるのかもしれない。
|