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2004年11月16日(火)
66.アコギな商売

『夢の印税生活者』と呼ばれ、そういうタイトルの本も出している及川である。
 適当なことをちょこちょこっと書いて高い金を取っていく、作詞家というのはアコギな商売だと思われているようだ。
 でも、身を削ってんだよ、これでもなかなか大変なんだよ、とずーっと特に心の中で叫び続けてきたのだが、最近「やっぱりアコギな商売なのかも…」と思うようになった。

 現在、軍事ジャーナリストの加藤健二郎氏と私、それに双方のホームページの運営をしているモロハシさんがきっかけとなって、音楽DVDを作っている最中である。
 一応チャリティーという名目なので、全員持ち出しである。言い換えれば、膨大な時間と手間と金をかけた遊びでもある。
 もちろん三人だけでは出来ることは限られているので、いろんな人たちの無償の協力を得て、ようやく来月中旬過ぎには販売できるというところまでこぎつけたのだが…。

 その撮影やレコーディングの際。私以外の人はみんな大荷物でやって来る。
 撮影隊である加藤さんとモロハシさんは、ビデオカメラや三脚などの小道具などを詰め込んだ、大きな重いリュックを背負って来た。
 ダンサーのmaiさんに至っては旅行用のバゲージである。衣装のまま電車に乗るわけにはいかないから、スタジオで着替え、撮影用の化粧をし、とそれだけでも実に大変な作業である。

 私なんて、お財布とタバコしか入っていない小さなカバン一つ。
 重たい物を持つということにも慣れていないから、ちょっとビデオを持たされただけで「重いよー、疲れたよー」とぶつくさ文句を言う。
「及川さんはタバコより重い物を持たない人だからねー」
 そんな私を見て、モロハシさんが言った一言である。

 また、レコーディングはアレンジャー・坂本洋氏の自宅スタジオでやったのだけど、自宅スタジオとは言え、ちゃんとレコーディングに必要な設備がなされていた。さぞかし金がかかっているんだろうなぁと、4万円のデッキですべてをすませている私は思った。

 そう言えば、何にも持たずにスタジオに行き、そこでウォークマンとワープロを借りて作業をし、ついでにお金も持っていなかったから、帰りはディレクターに家まで送ってもらったことがあった。
 そのときに書いた詞はオリコンの2位にまでいったから、そこそこのまとまった金が入ったはずである。支出ゼロなのに、である。

 作詞家は紙と鉛筆さえあれば出来る仕事、というふうに言われているが、私の場合は紙と鉛筆でさえ人から借りた物でやってしまう。設備投資なんてないに等しい。
 じゃあ日々の経費は、というと作詞家の経費も何だか怪しいのである。

 たとえばフリーの軍事ジャーナリストである加藤さんは、戦場に行くことで写真を撮り文章を書いてきた。言い換えれば、戦場に行かなければ写真も撮れないし、戦場の現実も書けないからである。しかし、その経費のほとんどが身銭だそうである。
 ほかのフリージャーナリストと呼ばれる人たちも、写真や文章を雑誌等に発表し、ある程度金が貯まったところで、それを元手にまた取材に行くというパターンが多い。
 以前、友人の作曲家が、
「一生懸命仕事をして稼いだ金で、パソコンや楽器やら仕事の道具を買っている俺って何なんだ!」
 と嘆いていたことがあったが、それと同じである。

 私も一応海外に「取材」にいくことはある。しかし、取材とは名ばかりのグルメと買い物の放蕩ツアーである。
 トルコに家を買ったら、向こうで過ごす分が経費として落ちなくなってしまったので、トルコポップスのCDを買いまくり、新規開拓のための取材費とでっちあげて、むりゃくた経費で落とす方向に持っていった。

 友人との飲み食いは接待交際費。好きな本やCDを買えば資料費。果たして仕事にちゃんと役立っているのかと問われれば、自信を持ってはっきりそうとは言いきれない部分がある。
 でも、作詞家って生活そのものが仕事だし、生きること自体が職業だからさ。笑って許してもらう以外にないのである。

 もうずいぶん前、税務署に入られたときに、年間800万円以上の衣装代を突っ込まれ、
「作詞家に衣装なんて必要ないでしょう?」
「イメージを売る商売なんだから、着る物に気を遣うのが当たり前だ! それにテレビだって時々は出てるんだよ!」
「でも、テレビ出演したときの洋服を普段でも着られるでしょう?」
「何百万人という大衆の目にさらした洋服を何度も着られるか!」
 正論を放つ税務員に対し、ものすごーい理屈で押し通してしまったことがあった。だって経費だと言い張らなきゃ、何にも落ちなくなるからさ。

 重い物も持たず、設備投資もいらない。経費と名の付くところはでたらめばかり。同じ物書きでも小説家やライターに比べると、一文字あたりの単価も高い。俳人とコピーライターには負けるけど。
 そう考えれば、やっぱり作詞家ってアコギな仕事なのである。

 撮影が終わり、加藤さんやモロハシさんが片付けをしている姿を横目で見つつ、ボリボリとせんべいを囓りながら、
「ああ、作詞家でよかったわー」
 そう呟いてしまった及川である。

 願わくば、税務署がこのホームページを見ていませんように。




 
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