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2004年7月17日(土)
41.嘘つきはトルコ人の始まり

 先日、『クルディスタンを訪ねて』の著者でもある、写真家の松浦範子氏にお会いした。
 彼女はクルディスタン、主にトルコ東部を7年以上も取材し続けているのだが、会ったら絶対に訊こうと思ってたことが一つあった。
「どうしたら腹を立てずに、トルコ人と付き合える?」

 何度もトルコに行って、さらには人々と深く関わってきた彼女だからこそ、きっと文化や風習、民族の違いを乗り越えて、トルコ人と付き合っていくコツが持っているんじゃないだろうかと。
 で、その質問をしてみたのだが、
「逆に私の方が及川さんに訊きたいですよ!」
 キッパリとそう言い放たれてしまった。

 トルコが好きで家まで買ってしまった私と、やはり何度も何度もトルコに通ってしまう松浦さん。そんな二人の共通の意見は、
「トルコ人がいなければ、トルコはとてもいい国なのに・・・・」

 なぜ、こんなにもムカついてしまうのかと言うと、とにかくトルコ人というのは嘘つきでいい加減だからである。
 しかし、日本人にとって彼らは嘘つきなのだが、彼らの方から見ると嘘をついているという感覚がまったくない。あくまで無邪気である。反対に、なぜそんなことにいちいち怒るのかと、不思議な顔をされてしまう。

 昨日言ったことと今日言ってることが全然違っていても、それは彼らにとっては嘘にはならない。
 たとえば、昨日は「大きくなったら消防士になるんだ」と言ってたのに、今日は「将来は医者になりたい」と言いやがる。おまえ言ってること違うじゃんと突っ込むと、
「僕は自分の将来に対しての『アイデア』を言ってるだけだ!」
 とものすごい勢いで返される。

 日本人なら、アイデアつまり夢というものは、たとえガキの頃の一過性のものであってもしばらくは持続する。また、夢が変化するときは、何らかの理由が伴う。病気になったとき医者に良くしてもらったので、自分も将来は医者になろうと思った、とかさ。
 そういうプロセスとか理由とかまったくなしで、いきなり心がチェンジしてしまうのだ。

 さらに、彼らはプライドがとても高い。あまりに高すぎて「知らない」という言葉を言えない。
 だから、たとえば道を訊いたとき、知らないなら知らないと正直に言ってくれればいいのに、嘘を教えやがる。で、こっちはよけいに道に迷うはめに陥ってしまう。
 そして、そういうことに対して彼らには悪意のかけらもないから、よけいに始末に悪いのだ。嘘を教えるくらいなら、最初っから知らないって言えよと怒ると、
「僕はただアイデアを言っただけだ」
 しれっとしながら、そう答える。プライドの高いトルコ人には「謝る」という定義も存在しない。

 私が知り合った絨毯屋。彼も同じで、言うことがとにかくコロコロと変わる。知らないと言えずに嘘を教える。また、自分は平気で約束をすっぽかしたりするくせに、こっちがそれをやるとものすごく怒る。
 ある日とうとうぶち切れて、
「この嘘つき野郎!」
 そう怒鳴りまくったことがある。向こうも何だこの野郎という感じになり、顔を真っ赤にして怒り出した。
「僕は今まで一度も嘘をついたことがない!」
 嘘をついていないと言い張ること自体が、嘘にしか聞こえないんだが。
「その僕に嘘つき呼ばわりするなんて絶対に許せない! 僕は今まで正直にやってきたから、お客さんも信用してくれて、こうやって店も大きくすることが出来たんだ!」
 そして、最後にこう付け加えた。
「僕がやったのは、安い物を高く売ることだけだ!」
 ・・・・それは日本人にとっては、立派な嘘つきである。

 こうなるともう『嘘』というものの捉え方自体が違ってくる。あることないこと織り交ぜて話をおかしくしてみました、みたいな感じでもない。トルコ国民全体がそういう調子なのだから、誰もそんなことに目くじらを立てたりしない。ただ私だけが10分おきくらいに怒っている。

 しかし、そんなにムカつくくせに、なぜまた行くんだと人には問われる。
 その答えは簡単。面白いからだ。わからないからこそ、またわかりあえないからこそ、人は面白い。

 よく「無言の共鳴性を求めて」なんていう人がいるけれど、人と人は決して一つの心を持ち得ない。罵倒しあい傷つけあって、そして伝えあう。でも、その中に一瞬だけ分かちあえるものが見つかるときがある。それを見つけるのは、もちろん容易ではない。
 トルコ人の大半はいい加減だけどタフで、私の疑問や執拗な攻撃にさえ逃げることをしない。ちゃんと受けて立つ。こっちが喧嘩を売れば、向こうも怒鳴り返してくる。
 曖昧な微笑みだけですべてを片付けようとする国に住んでいると、たまにはそういう場所や人々の間に身を置きたくなるのだ。たまに、でいいが。

 23日からまたトルコに行く。




 
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