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ある真夜中。同業者である友人から、突然の電話。
「あのさ。もし…、もしだよ。それこそマイケル・ジャクソンくらい、遣いきれないお金があったらどうする?」
…いったい何をゆーとんじゃ。
彼は目先のお金に苦労しているような状況ではないので、おそらく曲書きの作業に煮詰まったか、あるいは自分の人生に疑問を抱いてしまったのか。もしくは、誰かのサクセス・ストーリィーをテレビで観たか。
「何に遣う? ねぇ、何に遣う?」
そんなこと訊かれても…。実感のない金の遣い途に迷っていられるほど、及川さんは暇じゃない。
たとえば、宝くじで3億円当たったら何を買うとか、竹薮で2億円拾ってしまって持ち主が現れなかったらどうするとか。せめてそれくらいの具体的な設定を出してもらえれば、まだ考えようがあるってもんだ。
ちなみに、及川。余った金が3億円あるのなら、イスタンブールの観光地に売りに出ていたホテルを買う。1億円なら、いま残っている家のローンを支払って、余った金で都内に仕事場を借りる。そこにあと5千万円足してくれるのなら、和歌山の田舎に土地を買って家を建てる。
それでもまだお金が転がり込んでくるのなら、何のためらいもなく事業に投資する。たとえ会社が潰れても借金ゼロ。そんな仕事ができるなんて、それこそ夢みたいな話ではないか。
友人にそう答えると、非常につまらなさそうにされた。眠子さんには夢がない、と言い放つ始末。
「俺だったら、遊園地作るかなぁ〜」
…やっぱり、マイケル・ジャクソンのDVDを見たのだろう。
しかし、宝くじやロトを買った人たちは、必ずと言っていいほど抽選前に「当たったらどうする?」の話題で盛り上がる。まぁ宝くじなんて、当たる当たらないことより、夢を見させてくれるその時間が大事だから、みんな買うのだろうとは思うけど。
で、年末ジャンボ宝くじの季節。やっぱりそんな話になったとき、作曲家の友人が、
「俺は自分がプロデュースした子のCDを買い占める。でもって、ブームを作るんだ!」
そう宣言した。
シングルCD1枚1000円として、3億円で買い占められるのは30万枚でっせ。その枚数って、やしきたかじん『東京』にも及ばない(『東京』はトータル60万枚売れたらしい)。しかも、30万枚のプロデュース印税と著作印税は戻ってくるけど、たいした金額じゃない。
「えっ! 3億円あっても、そんなもんにしかならないの?」
なりまへん。しかも、30万枚売れれば一応ヒットチャートには入るけど、たった1週だけのヒット。
「ダメじゃん。マイブームじゃん!」
自分一人の力で、世の中にブームを作ろうなんてのは、所詮無理な話なのである。
「あたしはねぇ〜、眠子さんに100万円あげる」
おっ、太っ腹じゃないか。
「日頃お世話になってるし。それに、100万円あげても、まだ2億9900万円残ってるもんね〜」
そういう発想が、金を失うもとである。まだいっぱいあるもんね〜、まだ残っているもんね〜とタカをくくっているうちに、気付けば文無しになっていることであろう。
余ったお金は銀行に貯金しておくか、不動産に変えるのが安心。もう少し冒険したいと言うのなら、ファンドを買うとか外貨に換えてみるとか、いくらでも方法はある。及川、自分の人生に反省を込めて、そう忠告したい。
サラリーマンや公務員の場合、せいぜい「給料が上がったら」「ボーナスがたくさん出たら」という範囲内であろう。何千万円、何億円と言う金が、ある日突然転がり込んでくるなんてことは、宝くじか遺産以外まずありえない。
家族で海外旅行に行く。新しいスーツを買う。レストランに行って、いちばん高いワインを飲む。…上がった給料で、もらったボーナスで考えられる贅沢って、そういうものじゃないだろうか。また、堅実な日々の中で描く欲望は、小さいほど美しい。
ところが、私みたいな仕事の場合。当たりがデカいと(つまり大ヒットが出ると)昨日まで貧乏人だったのが、いきなり今日からセレブ状態になってしまったりする。金に人生が狂ってしまうことだって、多々ある。
6帖一間のワンルームで充分暮らせていたはずが、いつのまかに自分の中で欲が膨らんで、ブランド品に外車、高級マンションとどんどんエスカレートしていく。
だけど、金はいつまでも手元にない。たかが数曲ヒットしたところで、それが永遠に続くとは限らない。そして、金を遣っているうちに、そういう当たり前のことを見失ってしまうのである。
実際に私は、30代の10年間で宝くじが当たった以上の金を稼いだが、キレ〜イになくなってしまった。そのことに対して後悔はまったくないけど、もう少しあとのことを考えられる余裕があったなら、無駄な金を遣わなくてもすんだかもしれん。
でもあの頃は、「賢く遣って賢く残そう」という考え方なんて、とってもできなかったしなぁ。それに、どうせあぶく銭だという感覚もあった。だったら遣っちまえ、なのである。
浮いたり沈んだり、人が寄ってきたり離れていったり。そういうものを見ているうちに、どんなバカでも少しは学習する。私だって、ニワトリ並みの脳みそで学んだ。
一生かかっても遣いきれないほどのお金を手にするなんて、普通に生きているうえではまずあり得ない。悪いことでもしない限りね。また、努力の加減に沿わない金は、手元からこぼれていくのも早い。
3億円なんて、すぐになくなるぜ。
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