及川眠子 Diary日記風エッセイ「ムカつく私がバカなのか、それとも世間が悪いのか」
 
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2007年3月14日(水)
■ 16.ダメな人

 仕事においてダメな人。てっとり早く言っちゃうと「使えねえヤツ」。つまりは無能。そんな人はたくさんいる。
 そこそこ気が利くし性格も良さそうだし、なんて理由で、うっかり一緒に組んで仕事をしてしまったが最後。作業は進まずイライラはつのるばかり。挙げ句は、こちらがすべての尻拭きをさせられる羽目に。

 ダメな人がダメである所以。天使のごとくいい人であっても、結局「あかんわ、コイツ」となる理由。それはもう一言に尽きる。
逃げる。とにかくすべてにおいて、逃げる。
言い訳が多い。すぐに人のせいにする。謝ってすまそうとする。あと、意見をしたときに、「だって」「だけど」という言葉が多いのも、ダメな人の特徴である。
楽しいところはいっちょ噛みしたい。お金のにおいにも敏感。でも、厳しく言われるのはヤだし、責任を押しつけられるのも面倒だし。とりあえず何か面白いことがあったら呼んでください…って。仕事をお稽古ごとの一つだと思っているようだ。

「女の子はべつに仕事でバリバリやらなくっていいって、ずっと両親にそう言われてきたから…」
そう言い切った女性もいた。だったら、社会に出て来んなよー。家事手伝いをやっていればいいじゃないか。
ま、そこまでヒドいのはあまりいないけど、何かトラブルがあったときに、ひたすら逃げのモードになるヤツの多いこと。きちんと闘えない、物事にも向き合えない、ほかの人の足を引っ張るだけ、というような人は過去にもさんざん出会ってきた。

 だけど、ダメな人がダメである理由は、決して無能だということではなく、自分を有能だと勘違いしてしまっているところにある、と私は思っている。だから、タチが悪い。人に迷惑をかけてしまうのである。
そして、もっと始末におえないダメダメな人は、自分では有能であると思い込みながら、他人に「おまえは無能じゃ!」と言われることを屁とも思わないタイプだ。

 私自身は決して有能でも優秀でもない。才能があると言われるのは、好きな分野でとりあえず成功したから。実はそれほど大した人間ではないことは、自分でよくわかっている。
ただ、私はものすごーくプライドが高く(これも自分でわかっている)、人から「おまえは無能」呼ばわりされることが許せない。加えて、異常なまでの負けず嫌いでもある。
バカとか気が利かないとか、あるいは仕事ができないとか。とにかくそういうふうに人から言われたくないがために、なけなしの才能を駆使し、死にものぐるいで頑張ってきたのだ。言ってみればこれは、自己との戦いでもあり、世間に対する意地でもある。
約束を守る(〆切も約束のうちだ)。遅刻をしない。人の話をちゃんと聞く。資料を揃える。事前に下調べをしてから人に会う。…そんなことは、才能とは何の関係もない。少し努力すればできることばかりである。

 天才じゃない凡庸な人間が、才能を持った人たちだらけの業界で生きていくには、そんな当たり前のことを日々くりかえしていくだけ。要するに、ビジネスマンとしての基本を遂行していくことである。
だけど、そういった「基本ができている」ことが、結果的には仕事をする上で相手に安心を与えるし、どんな場合でもバカ呼ばわりされずにすむ。

「じゃあ、○○さんに連絡をしておきますね」
私は相手にそう告げた直後に、その○○さんに電話をする。あとでいいやと思うと必ず忘れるし。
で、すぐに連絡を取って、折り返し相手にそのことを報告すると、
「さすが。仕事が早い!」
大抵の人は、そう感心してくれる。
こんなこと、感性やひらめきの一欠片もなくてもやれるし、何の実績も理念も必要とはしない。そして、たかがこんなことが、自分への信頼に繋がっていくのだ。
でも悲しいかな、ダメな人にはそれさえできないんだなぁ。

 作詞家とかアーティストとかを目指している人で、なかなか世に出てこられない人たちはたくさんいる。
「及川眠子なんて、大した詞も書けないくせに…」
おぅおぅ、そのとおりやど。
なのに、及川には仕事が来る。なんでや。きっと裏であくどいことをしているのか。大物のパトロンがいるのか。きっとまともじゃない手口を使っているはずだ。…なんてね。
残念ながら、人にばらまけるほどの金もなし(自分のことで精一杯)。女を武器にするには、足りない部分が多すぎる(年齢的にも賞味期限切れ。容姿に関しては説明するまでもない)。暴力団に所属してもいなければ、政治家にコネもない。極めてまともすぎることを、くりかえしてきただけだ。

 世に出られない人の大半は、自分はこんなに才能があるのにとか、自分は天才なのにとか思い込んでいる。言い換えれば、自分は普通だと認められないってことだ。もっと言えば、自己過信か。
だから、基本的な部分で手を抜く。連絡を怠ったり、約束を破ったり。そんなことを重ねるたびに、相手の信頼をなくしているのも気付かないまま。
自分には人にはないものがある、というような思い込みも、確かに必要だろう。だけど、稀な素質を持った天才でもない限り、同じレベルの仕事をするのなら、人は常識を弁えた人間の方を選ぶに決まっている。
でも、その肝心な常識が欠落してるって人が多いんだよなぁ。だから、ダメな人なんだろうけど。

 私が以前取材を受けたときのこと。その相手はまだ駆け出しのライターで、でも音楽が好きだからという情熱に絆され、会うことにした。
謝礼が出ないのもわかっていて受けた取材だったのだが、貴重な時間をさいて会い(それはまぁいいとしよう)、その後何の連絡もなし。「ありがとうございました」という電話もメールも来なかった。もちろん、その取材を元にして書いたものも、私のところには届いていない。
そういうことって当たり前なのか? 依頼するときには一生懸命頼みこんでおいて、自分の仕事が終われば、あとは知ったこっちゃなしという態度。
もしその人がまた取材依頼を私にして来た場合、そのときの返事はノー。二度目はない、ってことだ。当然である。
つまり、人としての基本ができていない人間は、仕事では真っ先にはじかれてしまうってことなのさ。

 私は有能な人間ではない。愚かでバカで、なのにプライドが高く、今まで失敗も挫折もたくさんしてきた。でも、ダメな人間にだけはなりたくない。ダメな人だと呼ばれたくない。
だから、必死だし、ちゃんとしなきゃと思うのだ。

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