|
クイズ番組は滅多に観ない。なるべく観ないようにしている。なぜかと言うと、己れのバカさ加減に落ち込むからである。
クイズ番組を観ていると、やはり一緒にクイズを解いてみたくなる。簡単な常識問題にすら答えられない芸能人のことを嗤いながら、自分も解けない。テレビの前で自信満々に回答しながら、しっかり間違っている私がいる。
「あー、そうだった! いやぁ、勘違いしちゃったよ」
誰にでもなしに言い訳している自分が嫌いだ。この先どんなに有名になっても、絶対にクイズ番組にだけは出演しないと、心に誓う及川である。
時々私を買い被っているのか、それとも単に煽てているだけなのか、
「眠子さんはとても頭が良くて、何でも知っている」
そんなふうに言ってくれる人がいる。誤解だ。私は麻木久仁子にも西川史子にも負ける。水野裕子にすら敵わない。彼女たちがすらすらと解ける問題にも、まるっきり答えられないことがしばしば。観ているうちに、妙にいたたまれなくなってきて、ついチャンネルを変えてしまう。
人に向かって「あんたはアホか!」とか「このバカたれが!」とか言い放つくせに、自分もしっかりバカなのである。とほほ。
しかし当然ながら、世の中には私よりもっとバカがいて、安心するというか心を和ませられる。
次長課長の井上聡は、分数の足し算ができなかった。梨花はフランス人とのクォーターなのに、自分の血の4分の1を占めるフランスがどこにあるのか知らなかった。よゐこの濱口優は、英語で一週間の曜日を言えなかった。ああ、癒されるなぁ…。
上には上があるけれど、下にも下がいるもんだ。所詮私なんて中庸の人間。クイズ番組はそのことをも確認させてくれる。だから、観ない。
「分数の足し算どころか、簡単な漢字も書けないヤツはなんぼでもおるで。うちにバイトに来る高校生なんて、ほとんどそうや」
友人はそう言う。
彼はホテルやビルのメンテナンス会社を経営していて、主婦や学生のアルバイトをたくさん雇っている。体を使う作業がほとんどなので、さほど知力を重要視していないのだが、それにしても…と嘆きたくなるような人たちがたくさんいるそうだ。
単純な計算もできないので、たとえば「原液2%の配合で5リットルの洗剤を作る」ということも、当たり前のように無理だ。それでどうしているかと言うと、人のやり方を見て「目分量」で作る。だから、彼らが作った洗剤は毎回濃さが違うと話してくれた。
もっとひどい子になると、履歴書が誤字だらけ。親の名前を漢字で書くことができない子もいる。さらに、自宅までの地図を書けない子も。そして、そういう子はほぼ100パーセントの確率で、地図を見ても自分が行く目的地までたどり着けない。
ま、地図が読めないというのは、比較的女性に多い。現在自分のいる位置を説明できないとか、目的地にどうやって行けばいいのか明確に伝えられないとか、そんな人は結構いる。
「今、○○という交差点の、渋谷を背にして左側に立っているんですけど、ここからどう行けばいいですか?」
「コンビニは見えますか?」
「いえ、見えませんけど。ここからどちらの方向に向かえばいいんですか?」
「コンビニがある方向です」
…漫才か。
そんなふうに説明してくれる人は結構多い。そして、その大半が若い女の子である。もちろん、若い女の子じゃなくても、地図が読めない地図を書けない人はたくさんいる。私はかつて友人の家に行くのに、彼女の指示に従ったら何キロも歩かされたことがある。彼女の家は駅から5分程度の距離だったにもかかわらず、だ。
ぜーぜー言いながら、やっと彼女の家までたどり着いたとき(携帯電話で説明を聞きながら、40分くらい歩き続けた)、怒りより私はこいつほどはひどくないという妙な安心感にとらわれた。
また、以前まだフジパシフィック音楽出版に所属していた頃。私宛のお中元が事務所に届いたと,マネージャーから電話があった。
「眠子さん、○○プロダクションからキュウリが届いていますので、そちらに転送してもいいですか?」
キュウリ…? なんで○○プロはキュウリを? 社長の実家が農業をやっているのだろうか。
「私一人ではきっと食べきれないから、社員に配ってあげて」
食べ物を無駄にしては罰が当たる。たくさんいただいたなら、みんなにお裾分けして喜んでもらうのがいちばん。
「いえ、キュウリじゃなくて、キュウリの花なんですけど…」
まあっ! ずいぶんと珍しいものを。って言うか、なぜキュウリの花?
「私もキュウリの花なんて初めて見ます。でも、送り状に “キュウリ”って書かれてましたから。ちゃんと、“き”に“うり”って」
“木”に“瓜”。木瓜。…それは「ぼけ」と読む。
こんなことで腹は立たない。ただ愉快なだけだ。そしてやっぱり、少なくともこいつよりは自分の方がましだと、思わず心が癒される。
地図が読めない、漢字を知らないなんて大した問題ではない。要はどれだけボケてくれるか、どれだけ笑わせてくれるかである。
まるで、道を歩いていたらマンホールの蓋がぱっかり開いていて、そこに落ちてしまうような…。そんなバカとめぐり会うことが、人生にはあるのだ。そして、そんな楽しいバカと出会うことが、案外日々のストレス解消にもなったりする。 |