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この時期、お出掛けするのが怖い及川である。
なぜなら、街中でバーゲンをやっているから。ふらふらと店を覗き込み、衝動に任せてお買い上げしてしまうからだ。
さて、今年は年明けからいきなりノロウイルスにやられた。
母親が年始のお詣りに行った先で、いきなり隣に座った人に嘔吐され、そこからノロウイルスに感染。さらに、それが私にまでも飛び火。久々に熱を出して寝込んでしまったのである。
熱が下がって平常どおりに動けるようになっても、人にうつしたら迷惑をかけるだろうからと、しばらくは家で大人しくしていた。本を読んだりテレビを観たり、いつのまにか正月もすっかり終わっていたのである。
やっと完治して、ほぼ2週間ぶりで街に出掛けてみたら…。そしたら、世の中はバーゲンである。街中至るところに、私の大好きな言葉「SALE」の文字が…。
冬眠状態から覚めて、いきなりはじけた及川。
「もう以前みたいに出掛けることもなくなったから、ワンシーズンに1着か2着くらい新しい洋服があれば充分なのよね」
友人にそう話したのは、僅か1ヶ月前。私ってば、大嘘つきである。
いやぁ、買うわ買うわ。それも妙にデザイン性が強かったり、その物自体にはインパクトがあるのだけど、使いでが悪そうなものばっかり。まだウイルスが脳に残っていたせいだろうか。
しかし、バーゲンというものは人の気持ちを狂わせるものである。通常の値段で売っているときには躊躇するようなものでも、
「あら、お安くなってるわ」
と思った瞬間に、クレジットカードを差し出してしまうのである。普段は「着回しが利く」とか「長く使える」とか、そういったまともな価値観で選んでいる目が、いきなり見えなくなってしまう。
だけど、いくら安くなっているとは言え、たかだか2割3割、良くて半額である。店は損をしてまで売らないのだ。
さらに、私には変な性癖というか、悪い癖がある。
CAMPER(カンペール)という名の靴のブランドショップがあるのだが、ここの靴は左右の柄や模様が違う。たとえば、ストライプの模様のスニーカーだった場合、片方はタテのストライプ、もう片方はヨコという具合に。
で、そういったものを見てしまうと、その場を素通りできなくなってしまう。ファッション的に見た「ちょっと変なもの」は、私の購買意欲をムラムラと刺激するのだ。
私が最近たまに行くセレクト・ショップ。そこの店に置いてある服なんかもその傾向が強い。これを買うとあとできっと後悔する。わかっていながら、つい買ってしまうのである。
私は特別目立ちたがり屋ではないし、自分の容姿に自信があるわけでもない。人とは違ったファッションでこってり固めて、
「君って不思議系? なんか変わってる子だよねぇ〜」
なんて人から言われるよりも、
「及川さんは、きわめて常識的できちんとした人」
というふうに思われたいのである。
なのに、ちょっと世間の常識を逸脱するようなものを見るたび、ムラムラ感に捕らわれる。これは私が買わなきゃ、という一種の使命感にも似たような気持ちになるのだ。
以前、友人と話をしていたとき。
私と同年代である彼女は、ジャニーズの男の子たちをテレビで観るたびに、あの前髪を切りたい衝動に駆られる、と打ち明けた。
「そんな長い前髪。勉強の邪魔になるでしょ!」
そう思って、いてもたってもいられなくなるらしい。ムラムラ感である。
私の場合は、若い男の子たちのジーンズの穿き方が気にくわない。なんであそこまで腰を下げる必要があるのか。脚が短く見えるだけじゃないか。
ジーンズをずるずるに穿いた男の子たちを見るたびに、両手でがっと持ち上げて、へそのあたりでベルトをぎゅっと締めたいという思いが、胸の中でムラムラとわき上がってくる。
ムラムラという言葉を聞くと、想像力のない人たちはつい性的なものだけを捉えちゃうだろうけど、そうではない。一種の闘争心や征服欲、言葉にならない抗議など、自分の中で整理整頓ができない気持ちみたいなもんだ。
買い物が好き、買い物を楽しみたい人間にとって、買い物は「ただ必要なものを、金銭を払って得る」ことでは終わらない。逆に言えば、買い物は性的興奮とも近いものがある。
もしかしたら、私の「ちょっと変なもの」に対して感じるムラムラは、「気取ってる男をひーひー言わせたい」とか「いけすかないヤツをボコボコにしてやりたい」とかとも同じなのかもしれない。
男の子たちのジーンズを持ち上げれば、セクハラおばさんと警察に通報されかねないが、ものは「買う」という方法でとりあえずしのげるしな。
しかし、そうやってムラムラに誘われてばんばん買っていけば、金はいくらあっても足りない。
誰か私のカードを取り上げてくれ! |