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2006年6月4日(日)
28.孫が欲しい

 本格的な更年期障害に突入。
 そう人に言うと、優しくしてもらったり励ましてもらったり、「そんなことないですよ」と否定してもらったり(自分が更年期だって自覚しているのに、なぜ人が否定するのかはよくわからないが)。様々な反応が返ってくるのが妙に楽しくて、調子こいて会う人すべてに言いふらしている及川である。

 でも時には、
「あらっ、その年で? 早いのね」
 自分は全然関係ないわ、というふうな態度を返されることがある。そう言いながら、
「たまに眩暈が起こるのよ。低血圧だからかしら」
「最近汗をかきやすくなっちゃって…。新陳代謝がいいのね」
 あらあら、それは立派な更年期障害。気付いていないのか、それとも自分はまだ若いと信じていたいだけなのか。女をやり続けるのも大変なのである。

 閉経という事実を目の前にぶら下げられたとき、抱く思いはきっと人それぞれに違うだろう。
 私はとにかく早くあがってほしいと願うだけ。だって、面倒くさいんだもの。それにあがっちゃったら、もう何も気にすることなくいつでも温泉に行けるし、すっぽんぽんでオイルマッサージも受けられる。毎月の出費も減るぞ。(小銭だが)
 女というものは、「肉体が女であること」のみが証しとなるのではない。気持ちが女である以上、ヨボヨボのばあさんになろうと、極端な話性転換をしようと、やっぱり女なのである。立派に「女をやっている」幼稚園児だっているしな。

 しかしなぁ…。私は日本では正真正銘の中年女に見えるのであるが、トルコではやはり若く見られることが多い。おまけに、2歳児程度のトルコ語しか喋れないものだから、よけいに相手には幼く映ってしまうらしい。
 会う人会う人に(と言っても、そういうことを言うのは女性だけだが)、
「赤ちゃんは、まだ?」
 と訊かれるのには閉口している。
 46歳なんだよ。更年期障害なんだってば。と、いくら言っても理解してもらえない。たとえ46歳でも、若く見えれば子どもが産めると思っているのか。だったら森光子だって産めるぞ。
 本人はとっくにあきらめていることなのに、周りがあきらめてくれないのはなかなかつらいものがある。

 しかし、世の中には本当に閉経寸前で出産した、というような人もいるみたいだ。すごいなぁ…。何がすごいかって、子どもを産んだことよりも、その年齢で一から子どもを育てているってことだ。
 たとえ奇跡的に子どもが授かったところで、育てなければならない。少なくとも大学を卒業するくらいまでは、親が面倒を見なければいけないだろう。
 はっきり言って、私にはその体力も気力もない。猫の子くらいは育てられるかもしれないが、人間の子どもとなると絶対に近いくらい無理だ。
 子どもはべつにきらいなわけじゃないんだけどね。でも、子どもが好きなのと、育てるのは違う次元の話さ。

 体力も気力も充実した若い頃に、子どもを産むことを選択しなかった。これは私の失敗だったのかもしれない。だけど、その失敗を一度たりとも後悔したことはない。子どもを持たなかったことで、逆に得たこともあるから。また、私はそういう生き方を選んだのだ。

 ところで、このあいだ駅ビルの中にあるレストランでランチを食べていたら、隣の席に臨月間近のお腹を抱えた若い女性と2歳児くらいの男の子、そして彼女の母親とおぼしき女性が座った。買い物をしていたのであろう、たくさんの紙袋を持っていた。
 ああ、そうだね。そんな状況じゃ、やっぱりお祖母ちゃんがいないと買い物に行くのも大変だろうね。そう思っていたら、男の子は疲れ果てていたのか、レストランで眠りこけてしまった。いくら若いとは言え、大きなお腹じゃ眠ってしまった子どもを抱くのはつらいだろう。
 そこでお祖母ちゃんの出番。子どもを抱きかかえベビーカーに乗せ、さらにたくさんの荷物を両手にぶら下げて、店を出ていった。お祖母ちゃんはたぶん私と同年代、もしくは少し年上なくらい。

 その光景を見ていてフト思ったのは、一から子どもを産んで育てるのは無理だが、孫なら全然大丈夫ってこと。いくら体力が落ちたとは言え、孫を抱きかかえてベビーカーに乗せるくらいはたやすい。
 今もし私の娘か息子の嫁に「子どもができたんです」と言われたなら、もう大歓迎。いつでも子守りしてあげるし、何人でも産んでいいよと喜ぶだろう。それに、孫ってめちゃくちゃ可愛いって言うしな。

「今さら子どもはいらないが、孫が欲しい!」
 それからというものは、やはり会う人ごとにそう言っている。
「やだぁ。子どももいないのに、孫ができっこないじゃないですか」
 もちろん、人はそう言い返す。もちろん、私もそのことは理解している。バカじゃないんだからよ。
 だけど、自分の血を分けた人間であり、兄弟や友達の子どもよりはもっと密で、自分の子どもよりは距離感がある。それって結構いいなぁ。自己中心だけど世話好きでもある私の性格にはピッタリな関係だなぁ、と思えるのだ。
 また、若い頃に秘密で産んで里子に出した子どももいなければ、どこかの研究所で自分の卵子が利用されていた事実もない私には、100パーセント孫を得る機会がない。だから、よけいに欲しくなってしまうというのもある。
 ああ、孫が欲しいなぁ…。半分は本気、半分はウケ狙いで、相変わらず言い続けている私である。

 しかし、うちの母親は孫が2人(弟の娘と息子)がいるのだが、
「どうだ。孫は可愛いだろう? 何人でも欲しいだろう?」
 そう訊くと、
「もういらん」
 キッパリと言い放った。
 実際には、孫を持つのも大変らしい。




 
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