|
「どんな音楽を聴いてきたんですか?」
作曲家やシンガーに比べて、なぜか作詞家はこの質問をされることが少ないと思う。
「最近だと、誰のアルバムがよかった?」
そういう会話なら友人や仕事関係者とすることはあるが、若い頃にどんな音楽を聴いてきたか、またどんな人たちから影響を受けてきたのか、気になってくれる人はあまりいないようである。
やはり職業作家だからなのかも?
以前プロデュースしていた女の子たちを、ゴーゴーズのような雰囲気にしたくて準備をしていたら、その噂を聞きつけた作曲家から、
「お願いっ! 私に曲を発注して!」
という電話がかかってきた。
どうしたのと訊けば、彼女は若い頃からずっとゴーゴーズが大好きだったんだけど、誰もそういう曲を発注してくれないと言う。せっかくプロの作曲家になったのに、発注を受けるのはいつも全然違うタイプの曲ばかり。せめて一度でいい、得意なジャンルで勝負してみたい、と言う。
「私だって、レナード・コーエンやザ・バンドが好きで作詞家になったのに、誰もレナード・コーエンやザ・バンドみたいな詞を書いてくださいとは言ってくれないよ」
そう言って笑ったのだけど、でも作曲家はまだ「カラー」と言うか、「この人はこういうタイプの曲が得意だから」というのがはっきりしている。
作詞家、特に私なんて。Winkで売れCoCoで売れ「アイドルの及川」とまで言われたあと、やしきたかじんで売れてムード歌謡に転向かとなり、そのあとエヴァンゲリオンで売れたら「アニメも書けるの?」と言われて、さらにリエ・スクランブルやTinaで売れたらみんなが混乱し、ハリケンジャーで売れたあとは、「及川には何を発注していいのかわからない」とまで言われてしまった。はぁ…。
それと同時に、及川が聴いてきた音楽と作風とはまったく違うんだ、という判断もされたのであろう。
新人の頃は、「どういう詞が書けるのかなー?」という質問代わりに、好きな音楽のことを聞かれたものだけど、最近ではほとんどなくなったね。
それよりも、若いディレクターだと、たとえばダンス系やラップ系の音楽のことはわかるんだけど、レナード・コーエンとかザ・バンドとか言われたりしたら困っちゃうのかもしれない。さらに、邦楽だともっとマニアックな趣味へと走り出すし。
まぁ私の方も、最近の音楽にはついていけまへーんとなっているので、お互いに音楽の話はしない方がいいのかもしれないなぁ。
だけど、ずいぶん前にある男性作曲家が、
「女性作詞家って、ほんとに音楽に興味ないんだよな」
と言ってたことがあった。そう決めつけちゃうなんて、なんてこいつは視野が狭いんだろうと、そのときは憤慨したけど、
「私、あまり音楽は聴いてこなかったし」
実際にそう言い切る女性作詞家もいた。じゃあなんで音楽の道を選んだのだろうって思っちゃったよ。
私は音楽が好きで好きで、だけど作曲や歌は出来なかったから、作詞家の道を選んだ。
と言うよりも、私にとっての「歌」は、やはり「言葉」がいちばん重要であったから。それと、私が「誰にも負けない!」と思える武器は、言葉だったからである。
また、好きな世界観を書ける機会は滅多になくても、それでも聴いてきた音楽は、私の中でしっかり肥やしになってくれている。
一時期どうも気持ちが向かなくて、音楽自体から遠ざかっていた私である。仕事は続けているものの、積極的に音楽と関わることをしてこなかった。もっと言えば、音楽業界の人たちともあまり会わなくなっていた。ここ何年か、私が付き合ってきた人たちは、音楽以外の世界の人たちがほとんどである。
そうやって距離を置くことで、私の気持ちがまた音楽へと向きだした。
今は新人作詞家のように貪欲にCDを聴き、音楽を楽しんでいる。書きたいことも自分の中にいっぱいある。新しいことへのチャレンジも始めた。
ああ、やっぱり自分は音楽が好きなんだ、この世界でいたいんだ、ということを実感している。
ふと思い出してみれば…。
私はいつもそうやって音楽と付き合ってきた。どっぷりと浸かる時期と、距離を置く時期をくりかえして、自分の中の「音楽に対する気持ち」みたいなものを確認してきた。
そして、たどり着く結果も同じ。この仕事を続けたい、ということである。
私にとって音楽とは。きっと夫婦にはならない、まるで「死ぬまで恋人」みたいなもんなんだろうなぁ…。
あなたはどんな音楽を聴いてきましたか?
また、あなたにとって音楽とは何ですか? |