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2006年2月18日(土)
9.「才能」というもの 2

 日垣隆氏のコラムの中で、とてもうなずける一文があった。以下引用。

【平均すれば少なくとも毎月100冊は本を読む。なぜそのようにしてきたか、と言えば話は簡単。自己評価が低いからだ。(中略)
 自分が天才肌だと思っている人は、あまり努力をしない。努力とは、自己評価が低いゆえの向上心の発露だからである。】
     (日垣隆『急がば疑え』より)

 なるほど。ほんとになるほど、である。
 作詞家になりたいシンガー・ソング・ライターになりたい、と願っている人たちの中には、きっと自身に「才能がない」と思っている人はいないだろうと思う。
 だったら、なぜ皆がプロになれないのか。挫折して故郷に帰ったり、我慢しながら会社勤めをしている人の方が多いのか。
 それはただ運だけではないはずだ。

 努力しなくても得られるものが才能。でも、努力しなければ、いくら才能があっても花は咲かない、と私は思っている。矛盾しているようで、実は極めて単純な法則である。
 では、努力とは何なのか、である。
 その答えも簡単。努力とは「逃げないこと」である。

 夢を叶えられない人たちに共通して言えることは、とにかく言い訳が多い。人生自体が「でも…」と「だって…」の繰り返しである。
「でも、自分なりに頑張ってるつもりなんですけど…」
「だって、アルバイトが忙しかったし…」
 君の心の引き出しには、言い訳しか入ってないのかなー? そう問いかけたくなるほど、今の苦しさやもどかしさから逃げることばかりを考えている。そんな人たちに夢を叶えられるわけがない。

 あるアーティストが詞を書けるようになりたいと言うので、書いたものを見せてもらった。ヒドかった。でも、とりあえず1曲くらいはかたちになるものに仕上げてあげたくて、アドバイスをしたのだが、
「でも、カノジョはこの詞が好きって言ってくれたんですよ!」
 何度も書き直しを強いられて堪忍袋の緒がぶち切れたのか、ある日そう言って放り投げてしまった。
 じゃあ、その恋人にCDを出してもらえよ。出したCDを全部買ってもらえよ。
 私自身に私情はない。誰に見せても恥ずかしくない、どこに持っていってもいいねと言われるものにしてあげたいから、手伝っただけのこと。途中で下りたければ、自分からそうすればいい。
 結局、彼はそのあとすぐに事務所をクビになり、今はどうしているのかも知らない。詞を書けるようになる前に、見放されたみたいだ。せめて詞が書けるようになっていたら、また違う方向に道が開けたのかもしれない。
 あきらめた自分が悪い。

 またずいぶん前のこと。友人に頼まれて、作詞家志望の子の作品を見てあげたことがあった。忌憚のない意見を聞かせてほしいと言う。
 じゃあ忌憚なく言わせてもらうけど、この《蜃気楼の中でつかんだ夢はまぼろし》ってフレーズは何じゃ? 
 蜃気楼も夢もまぼろしも、全部同じ意味の言葉である。これは《深夜0時のミッドナイト》と言っているようなもの。もっとダサくすれば《肝臓の腹痛が痛い》である。
 才能があるとかないとか以前に、基礎が出来ていない。書きたいことが何なのかがまったく伝わってこない。でも頑張って。…みたいなことを言ったと思う。

 彼女はそのときは黙って聞いていたのだが、そのあと友人に「あんな失礼なヤツを紹介して…」とめちゃくちゃ怒りまくったそうだ。
「絶対に及川眠子を追い越してやる!」
 そう息巻いていたらしい。おお、追い越してくれ。その前に早く追いついて来い。
 私だって新人の頃、ぼろくそに言ってくれたヤツに対してそう思ったさ。怒りは自分のパワーになる。だから、あの頃こてんぱんに貶してくれた人たちには、今はむしろ感謝をしている。
 でも、怒るだけじゃダメだ。人に八つ当たりをして気分が清々して、それで一件落着になってちゃ、欲しいものは手に入らない。
 その彼女もプロになることができなかったなー。頑張っていたみたいだけど、意気込みだけではダメってことだ。やっぱり行動が伴わないと。

 また、自分で頑張っているって思ってしまったり、人に頑張っていることをアピールした瞬間に、そこですべては終わる。逃げている人たちの大半が、この「私は頑張ってる」病に犯されていると思う。
 私は頑張っているのに、世間の見る目がない。才能を正しく評価できる人がいない。時代が早すぎた、とか何とか。
 でもね。世の中を見据えて、時代とシンクロさせて、その中で皆がいいと思える作品を生んでいけるのが、作詞家やアーティストなんだよ。

 少なくとも、私は努力してきた。だけど、頑張っているなんてことを人に言わなかったし、頑張っている姿を見せたくなかった。それにそのときは、努力を努力だとも思わなかった。
 何度も何度も書き直しを命じられても、ただ淡々とそれに応えるだけ。会ってもくれない人たちには、やっぱり何度も何度も詞を送りつけるだけ。それを繰り返してきただけである。
 たった一片の才能でも、夢は叶えられるのだ。

「君はほんとにしつこかったねぇ…」
 新人の頃にお世話になったディレクターに会うと、今でもそう言われる。
 天才ではない人間にできることは、しぶとく当たって砕けること。そして、逃げないことしかない。
「私は相変わらずしつこいでっせ」
 次の夢はある。でも、武器はそれだけだ。




 
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