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2006年2月6日(月)
6.私物意識

 心が狭い人間だからか。それとも単なる潔癖性なのか。
 他人との距離感を大事にする日本人に於いても、私は特に「私物意識」が強い人間であることに、つい最近気付いた。

 物に執着する人間なのかと言うとそうでもない。
 購買意欲は誰よりもすさまじく、日本の経済効果を支えているとまで言いきれるほどなのだが、物に対するこだわりはあまりないのだ。私はただ買い物が好きなだけで、物自体は私を通過していくに過ぎない。何か特定の物をコレクションするといった趣味もない。
 ものすごーく正直に言えば、自分が買った物が早くなくなればいいのにとさえ思う。そしたら次を買えるから、と。

 とてもお気に入りの、たとえばストールがあるとする。誰かがそれを見て、
「あらっ。ステキねー。貸して!」
 いいよ、となった場合。次に出る言葉は必ず。
「あげる…」
 返してくれなくていいとなる。だけど、それがもし本当に本当に気に入っていて、できれば一生使いたいってくらいに思っていたときは。
「イヤ!」
 絶対に貸さない。
 要するに、自分の物は自分だけが使っていたい。他人との貸し借りはきらいなのである。まぁセコイと思われても仕方がないのだが、逆に言えば太っ腹でもあったりする。

 そんな私が、私物意識とかプライバシーとかをほとんど持たない民族の中で過ごしていると、時にひどく苦痛になる。
 前回も書いたが、物の貸し借りは当たり前。自分の物と他人の物の区別があまりないトルコ人たち。他人の家に来ても、勝手に冷蔵庫は開ける。引き出しを探る。断りもなく物を使う。
 最近ではずいぶん慣れたし、そういう人たちだからと諦めもついて、最初頃のように怒らなくなった。また、彼らも私が嫌がるのに気付いてか、私の物にはなるべく触らないようにしてくれているみたいだ。

 さすがに、クローゼットの中の私の洋服を着てみたり(子どもはする)、化粧品を使ったり(子どもはする)、私のベッドに寝たり(子どもはする)はしない。しかし、子どもがやっているのを見つけたときに、怒らない大人って何なんだ。
 以前、親戚中がうちに遊びに来たとき、日本の友人へのお土産用に買って棚の奥に置いてあったお菓子を、気が付かないうちに全部食べられてしまったことがあった。
「これって必要な物かもしれないよ。食べていいか、一応訊いてみようよ」
 って、誰も言い出さないのは何なんだ。
 やはり友人へのお土産用に買って、ちゃんと袋に入れてあった洋服をわざわざ取り出して、みんなで試着していた。自分への物じゃないことがわかっているのに、つい手を通してみたくなるのか。
 何なんだーっ?
 …ずいぶん慣れたとは言いながらも、やはり時々は「キィーっ!」となってしまうことがある。

 ちなみに我が家(日本の)では、私宛に届いた郵便物や荷物を、うちの母親は絶対に開封しない。それが香典返しのタオルだとわかっていても、通販のカタログだと知っていても、私が「開けてもいいよ」と言わない限り開けない。
 また、私が買ってきたお菓子やパンを、やはり「食べてもいいよ」と言わなければ手を付けない。
 我が家ではそれがルールであった。だから、こんなにも私物意識の強い人間に育ったのかもしれない。

 母親と私間で洋服や鞄なども共有することはない。お茶碗や箸は当たり前、湯飲みやコーヒーカップやランチョンマットも自分のが決まっている。風呂場の石鹸も爪切りも、各自専用の物がある。
 タオル類は共有しているが、一度使ったら必ず洗濯をする。誰かが使ったあとのタオルを使うことほど気持ちが悪いことはない、と言い切ってしまう私なので、タオルはいつも洗いたてさ。

 前に住んでいたマンションでは、CDや本をリビングに置いてあった。すると遊びに来た客の中には、それを勝手に引き出して読んだり聴いたりして、もとに戻さず放置して、ひどいときには散らかして帰ることがあった。
 そういう行為がどうにも許せず、なので今の家に移ったときに、CD棚や本棚はすべて仕事部屋と誰も入ってこない寝室に設置した。
 仕事部屋へは、母親は入口までしか入って来ない。夫は入ってくるが、開けていい引き出し使っていいペンまで指図されるので、たとえばメールをチェックするなどの用事が済んだら、さっさとリビングへ引き上げる。
 我ながらものすごく心の狭い人間だと思う。テリトリー意識が異常に強いとも。だけど、イヤなものはイヤなのだ。自分でもしんどくなるときがあるけれど、そういう人間に育っちゃったものは仕方がない。

 また、私の私物意識は、下着と歯ブラシとスリッパの3点セットに対して特に強い。これらを共有するくらいなら、いっそ下着は穿かない。歯も磨かない。裸足のままの生活を選ぶだろう。
 だが、どうも誰かが私のスリッパを履いたらしい。
 トルコに行ってしばらくしてから足の指の皮が剥けだし、ところどころ赤くなった。
「石鹸にでもかぶれたのかな。それとも水(石灰分の強い硬水なので)にやられたのか」
 お気楽にそう思っていたのだけど、日本に帰ってからも全然治らない。

 で、病院に行ったところ、なんとっ!水虫だと判明した。誰かが私に水虫菌を感染させたらしい。
 怒りまくったのは当然である。
 現在もまだ治療を続けている。去年の暮れから今年にかけて、トルコでは鳥インフルエンザが大流行であった。だけど、水虫菌の方が恐いと、身をもって感じた及川である。
 これによって今後益々、私物意識も強くなるだろう。




 
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