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またしてもパンツ絡みの話題になるが…。
私がトルコにいるのは、トータルして年のうち3ヶ月くらいである。年に3回か4回くらい渡航して、だけど1ヶ月以上滞在すると頭がおかしくなってくるので、たいていは1ヶ月以内に日本に帰国する。
だから、うちの夫は向こうには一人でいることが多い。そのとき淋しいからなのか、相手に乞われるからなのか、親類や友人がうちに泊まっていることもある。まぁお客さんを大事にする国民だから、それはそれで全然構わないのだけれど…。
このあいだも私がトルコに行く前日まで、夫の兄嫁の弟がうちに泊まっていたようだ。さすがに私がいると気兼ねするのか、そのあとは洋服だけを残してホテルか別の友人宅に行ってしまった。
しかし、洋服は相変わらずうちに残したまま。なもんで、ある日彼は着替えを兼ねて、それらを取りに来た。
で、彼が帰ったあと、何気なく洗濯カゴを開けてみると、そこには彼の今まで履いていたパンツが入っている。
どうしてコレを持っていかないんだ? また取りに来るのか? って言うか、血のつながりもまったくない女にコレを洗わせる気なのか?
一応恐る恐る夫に訊いてみたところ、なんでそんなことをいちいち気にするのかという答えが返ってきた。
たとえば兄嫁や友達の奥さんに、自分のパンツを洗わせてもまったく平気。さらに、自分のパンツがなかったら誰かのを履いていく。反対に、自分のパンツを誰かに履かれてもまったく気にしない。と言うのである。
つまり、自分が金を出して買ったパンツであろうと、そこに執着心はない。また、自分の履いていたパンツを見られても、当然「中身が入っていない」ので恥ずかしくも何ともない。
そうなってくると、「アナタのもの」と「ワタシのもの」を分ける境界線なんて、ほとんどなくなってきてしまう。
そこにあれば着る。そこにあれば使う。そこにあれば食べる。…何ともわかりやすい基準である。
どんなに貧乏な家庭でも、大概の日本人は自分用の茶碗と箸を持っている。そこには明らかに「私物」という観念が存在する。自分のものは自分のもの、他人(家族も含んだ自分じゃない人たち)のものは他人のもの、というふうにはっきりと線が引かれていることが多い。
また、他人のものは汚い、という「穢れ」の思想(これに関しては、井沢元彦氏の著書に詳しく書かれている)も強く持っている。
そういや。
トルコでは独身の男女が一人暮らしをすることは滅多になく、子供の多い家では大所帯である。しかし以前、洗面所に家族の数だけの歯ブラシが置いていないのを見て、歯を磨かない人も多いのかなと不思議に思っていたのだが、あれは歯ブラシを家族間で共有しているのかもしれない。
実際に、食後につまようじでシーシーやっていた娘に、私にもちょうだいと母親が言ったとき、娘はその自分が使っていたつまようじを渡した、という光景を目撃したこともあった。
もしうちの母親が私に対して同じことをやったなら、私は彼女を家から追い出すかもしれない。1円にも満たないような安い物をケチるんじゃないよ、などの経済的理由などではなく、たとえ家族と言えども越えていい線と悪い線があると思ってしまうからだ。
仮にパンツの替えが一つもなくなっても、私は母親のものを絶対に履いたりしない。サイズが違うからね、なんて理由ではもちろんない。ノーパンでそのままコンビニに新しいパンツを買いに走るだろう。
でも、トルコ人は、
「あ、洗ってある。オッケー!」
てな具合で、時には誰のものかさえ曖昧なパンツを平然と履いている。逞しいと言うべきなのか、そうじゃないのか…。
トルコの女性がよく頭に巻いているスカーフで、縁にきれいな編みが施されたものを「トゥルベント」と呼ぶ。これはすべて手作りで、女性たちがいろんなデザインの編みで縁を飾って、おしゃれを楽しんでいるようだ。
私も黒地のスカーフに色とりどりの花がついているトゥルベントが欲しくて、姪に頼んで作ってもらったことがあった。材料費プラス手間賃として、夫はそれに5000円くらい支払った。
その姪がうちに遊びに来ているとき、ツゥルベントを貸してほしいと私に言ってきた。で、私は彼女が作ったそれを貸したのだけど、返すのを忘れたのか、そのまま帰ってしまった。
それから3日後に、彼女の家を訪れたとき。彼女の母親の頭にはしっかりそのツゥルベントが巻かれていた。
「これ誰の? わからないけど、しちゃおう」
と思ったのだろうか。もしかしたら「これ誰の?」という疑問さえ抱かずに、そこにあったからしてみました状態なのかもしれない。
うちの夫は、何のためのお金を支払ったのだろう。
「それは私のだから返して!」
と言うことさえできず、複雑ぅーな気持ちで帰ってきた私である。いったん自分の手を離れてしまえば、それはすべて「みんなのもの」になるみたいである。
トルコでは、人に触られたくないものや「ワタシのもの」は、もう金庫に入れておくしかないのかもしれない。
しかし、歯ブラシやパンツやツゥルベントを金庫に入れるってのもなぁ…。
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