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2006年1月18日(水)
1.女を捨てる日

 寒さ厳しき折。誰だって冬は寒いのである。
 しかし、寒いからと言って厚着をすればいいってもんじゃない。いかに自分は寒さを感じない服装で、人にスタイリッシュに見せるか。それがオシャレというものであろう。
 まさか十代の娘っ子のように、ミニスカートにナマ脚でブーツなんて出来るわけがない。そんな格好をした途端、神経痛が悪化しそうだ。

 寒さに弱い及川は、ババシャツをしっかり着込んで、下はタイツに靴下。だけど、屋内に入ってしまえば暖房が効いていて暑いので、着るのはセーター1枚だけ。そしてダウンコートを羽織るという方法で、いつも冬を乗り切っている。
 寒いから、または暑いからと言って、それをしのぐためだけの格好をしていれば、次第にオシャレ心も遠ざかってしまう。と共に、女を捨てたように見られるのが怖くて、つい気合いを入れる。それを果たして何歳までやれるのだろうか、フト考える今日この頃である。

 このあいだも、友人何人かとごはんを食べようということになった。たまには女だけで集まるというのも、なかなか面白い。
 その中の一人で、私よりも少し年上の女性。彼女のそのときの格好がちょっとスゴかった。
「どうせ女ばっかしだしぃ」という気持ちの表れなのか。ウエストゴムのスカートを履いていたのだけど、ゴムがびろんびろんに伸びていて、だからスカートがずり落ちてこないようにと、上から紐を巻いていた。その紐も、まるで褞袍の帯のようなものである。
 そして、それを見た全員から非難のお言葉。

「いやだぁー! 何ていう格好してくるんですかぁ!」
 場所は代官山。小洒落たイタリアン・レストランである。せめてベルトかなんかで巻いていたなら、まだ救いようがあったのに。
「それってもう女を捨ててますよ!」
 友人の一人がそう言うと、彼女は胸を張って、
「だって、もうおばさんだもーん!」
 そうすると、言われた側も胸を張って。
「おばさんになることと、女を捨てるってことは違うんですっ!」
 おおっ、確かに。

 私の周り、特に音楽業界の女性たちは、いくつになっても煩悩を捨てきれない人間ばかりで、会えば化粧品がどうだとか洋服がどうだとか、そんなことばかり言っている。もちろん、私もそのうちの一人だけどさ。
 私がいつも服を買っている店は、30代がターゲットのカジュアル・ブランドである。そこの洋服を着たいばかりに、一応体型にも気を配り、若く見せようと努力するのである。
 いわゆる「おばさんブランド」。ラメ入りの丈の長いセーターとか、ヒョウ柄のスパッツとかには、さすがにまだ手を出す気にはなれん。体型はすでにそのファッションの域に入りつつあるが、何とか踏ん張っている。

 自分をおばさんだと認めていないわけじゃなく、もう若くないことをしっかりわかっているから、少しでも頑張ろうとするわけである。これはもう世間に対しての見栄以外の何ものでもない。でも、見栄を張る気持ちをなくしてしまえば、あとは坂をどんどん転げ落ちていくだけ。
「女を捨ててんじゃーん!」
 と言われても仕方のない自分になってしまう。
 また逆に、自分は若者には決して負けてないぞなんて思っちゃって、マルキューで服を買ったりはしない。そこまで身の程知らずではないし。
 って言うより、悪いけど小娘よりはお金を持ってんだよね。青山や渋谷でそこそこいいものを買うくらいの贅沢は、若くない、だけど貧乏でもない、一生懸命働いてきた自分へのせめてものご褒美である。

 で、そんな私だが、最近では洋服云々を言うより前に、この体型が気になりだしてきた。
 年を取ると、下腹はぽっこり、尻や太股はだらりになってくる。どんなに気を遣っていても、なかなか重力には逆らえず、益々だらしない体型と化してゆく。
 でも、運動嫌いだし、食事制限なんて絶対にできないし。それより、運動や食事制限が重力に追いついてくれるとは到底思えない。一度ついた脂肪は、若い頃のように簡単には取れないのである。

 友だちにふと、これはもう脂肪吸引くらいしか方法がないのかなぁと漏らしたところ、
「何言ってるんですか! 眠子さんは愛してくれる人もいて、それで充分じゃないですかぁ!」
 あのな。そういう問題ではないのだよ。
 私は一人の男に「どんな体型になっても愛している」と言われるより、100人の男に「いい女じゃん」と言われたいのである。
 いや。たとえいい女だと男たちに認めてもらえなくてもいい。自分が満足する自分でいたいのだ。

 ぽっこり腹を嘆きながら、夜中に菓子パンを食ってしまうような生活を続けてはいても、まだ何となく(ほんとに根拠もなく)あきらめていない自分がいるということ。もしかしたら何かのきっかけできれいになれるかも、と心のどこかで信じていたりもする。
 それがたぶん「女を捨てていない」証しのようにも思える。
 あがいてあがいて、あがきまくって。きっと最期には「仕方ないのか」と思う日が来るかもしれないが、一応死ぬまで現役(何の現役なのか?)と思っていたい及川である。だから、化粧品にこだわり、洋服にこだわる。煩悩だと笑ってくれ。

 そういや。
 このあいだ、みんなで「尿漏れ」の話で盛り上がりまくっていたら、その中の一人が堪えきれずに、
「なんで、みんなそんな話で盛り上がれるの! 女を捨ててるんじゃないのっ!」
 と怒り出したということがあった。
 尿漏れと女を捨てるのも、また別の問題であると私は思う。

 …てなわけで、煩悩に暮れ煩悩に明けた2006年。今年もどうぞよろしくお願いします。




 
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