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頑張った自分にご褒美…。
かつて買い物にはまりまくり、手当たり次第物を買っていた頃の私が、いつも自分に言い訳していた言葉であった。
今でも雑誌などを見ていると、時々このテのことが書かれている。宝石も着物もバックも、頑張った自分にご褒美。特に分不相応な買い物をするときには、都合のいい言葉ではある。
私は買い物が大好きなくせに、ブランド品にはまるっきり興味がない。むしろ敵視しているようなところもある。人が持っているのと同じ物を持ちたくない、ありきたりでつまらないじゃん、というのが私の意見である。
だから、車もベンツやBMWではなく、バッグもエルメスやルイヴィトンではなく、洋服もアルマーニやシャネルではなく、化粧品もランコムやエスティローダではなく、すべて無印に近いようなものばかり。あくまで機能重視の合理主義者。
しかし言い換えれば、一流のものを知らないということでもある。名前があるものは、やはりほかのものとは違う優れた点があるのだろう。それに気付かないから、丈夫で安くていいやとユニクロですませてしまうのである。
所詮サラリーマンの子である。身についた貧乏は、ちょっとばっかし稼げるようになったとは言え、そうそう変わるものではない。
だけど、本当のお嬢様は、今どきのOLや女子大生のようにブランド品を買い漁ったりはしない。「おばあさまからいただいた」真珠のネックレスをさりげなくしていたり、国産車に乗っていたりするものである。
だって、ブランド品でゴテゴテに飾りまくってるのって、誰が見ても下品だからさ。良家の子女は上品と下品の違いが確実にわかるからこそ、育ちがよいと人にも認められるのではないだろうか。
世界中のブランド品の3分の1は日本人が買っているらしい。じゃあ、誰が買っているのか。たぶん給料20万円前後のOLでは、と私は推測する。
海外のDFSや空港で見掛ける、いかにもブランド品の入った大きな紙袋を提げているのは、あまりお金持ちではなさそうなOLたちばかり。安いパックツアーで来て、帰りは買った物でバゲージがパンパン。
ずいぶん前、友人と3泊4日の香港に行ったとき。彼女はなんでそんなに大きなのが必要かなと思うほどのバゲージを提げてきていたのだが、帰りはそれにさえ入りきれない量の買い物でぎっしりだった。
ちまちまと小銭を貯めて、頑張った自分にご褒美、なのである。
そこまでしてブランド品が欲しいかなと思っちゃうのだが、本人たちは欲しいのだろう。
「ねぇ。医療関係の仕事って、ずいぶんとお給料がいいんだね」
パーティー会場でたまたま友人に紹介してもらい、名刺を交換しただけの人を指して、私に言う。
「へっ、なんで?」
「だってあの人、バーキン持ってたよ」
私なんて全然気付かなかった。と言うより、さっと見ただけでそのバッグがバーキンなのか何なのかさえわからない。まったく興味がないからである。
でも、彼女のその一言で、ブランド好きな人は自分が持つという前提だけでなく、他人の持っているブランド品も気にかけて見ているんだなと思った。
たいていの人は金持ちになると、自分の功績を何らかのかたちに換えてみたくなるものだ。それは株券やら定期預金やらじゃなくて、もっと世の中にわかりやすく見栄が張れるもの。
よくテレビに出ている、財を成した「セレブ」たちが、指に大きな石の指輪をしたり骨董品を集めたり、六本木ヒルズに住んだりするのも、その思いの一つではなかろうか。
いかにも成金思想、というふうに見られるかもしれない。でも、一代で財産を築き上げるような者は、そうでなくてはいけないと思う。何かが欲しいから、人も羨むような暮らしがしたいから一生懸命に働くという、ストレートでわかりやすい野心こそが成功には必要なのだ。
また、早く「自称セレブ」から「真のセレブ」になりたくて、また良家の子女に追いつきたくて、かたちから入るのは当然でもあるとも言える。
ブランド品とは、その一歩を踏み出すためのものなのかもしれない。
事実、私自身が買い物に走ったのも、田舎者ゆえのコンプレックスからだった。いいものを身に付けたい、いい暮らしがしたい、そしたら誰にもバカにされない、という思いが常にあった。
だけど、長年培ってきた庶民感覚はいわば形状記憶合金のようなもので、経済力が下降すると、簡単にもとの貧乏性に戻っていくのである。
また、買い物にはまっていた時期でもブランド品に手を出すことはしなかったので、一流品のよさも知らぬまま、よって一流品の魔術にもかからずに今に至っている。
そんな私であるが、あるときイスタンブールで売りに出されていたホテルを見た瞬間、ものすごーく欲しくなってしまった。
しかし、1億6千万円である。内装を入れれば2億円である。頑張った自分にご褒美、にしては高額すぎる。第一そんな金は家中のどこを探しても見当たらない。
なもんで、生まれて初めて宝くじを買ってしまった。もちろん、はずれたけどさ。
ああ、このホテルが欲しいーっ!
心でそう叫びながら、きっと私にとっての「ホテル経営」はOLたちのエルメスやシャネルと同じなんだなー、と気付いたのであった。 |