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2005年11月2日(水)
85.エヴァンゲリオン再び

 作詞家っていい仕事だなぁと、しみじみ思ってしまう今日この頃である。だって、かつてヒットした曲が数曲あるだけで、一応食うに困らないほどの印税が入ってくるんだもん。
 及川、ここ数年はほとんど隠居生活のような日々をおくっているが、朝から晩まで働いている同い年の会社員よりは年収が多い(と思う)。でも、あまりに何にもしていない頭も使っていないもんだから、最近はちょっとボケたかなって感じになってしまった。
 昨日も財布がない財布がないと大騒ぎをして、挙げ句冷蔵庫で見つかった。冷え冷えになっていた。
 少しくらいは運動もして、脳ミソも働かさなくちゃいかんのである。

 さてこのあいだ、作編曲家の大森俊之氏から電話がかかってきて、新世紀エヴァンゲリオンが放送開始から10周年だから、その記念のヴォーカルアルバムを作ると言う。
 おおっ、もう10年も経ったのか。
 しかし、10年経ったと思えないほど、相変わらずエヴァンゲリオンは人気があって、パチンコやプレステで使われたりDVDや本が出たりで、及川はずいぶんその印税で食わせてもらった。パチンコに至ってはめちゃくちゃ人気機種らしく、とうとう10万台を越え、さらにはパート2まで発売されると聞いている。
 たった1年弱テレビで放映され、2回映画になっただけのアニメである。『サザエさん』や『ガンダム』のように長く続いているわけでもなく、おまけに観る側の人間を選ぶようなめちゃくちゃ難解な内容なのに…。

 今回は10周年記念アルバムにふさわしく(なのか?)、オープニング曲の『残酷な天使のテーゼ』と映画の主題歌になった『魂のルフラン』を新しいヴァージョンで録音。
 さらには、綾波レイの声を演じた林原めぐみの歌で新曲も入れたいと、そのときに大森氏から言われた。

 以前、拙著『夢の印税生活社』でカミングアウトしたが、及川は実はエヴァンゲリオンを観ていない。観ていないから、
「はて、綾波レイ? 誰だっけ?」
 即座に理解できずに、そのまま考え込んでしまった。なのに大森氏ったら。
「じゃ、曲は今週末までには送りますので」
 と、そのまま電話を切ろうとする。あれっ、詞のコンセプトは?
「いつものとおり、眠子さんにお任せってことで」
 10年も経っているのである。昨日食べた夕ごはんの内容も思い出せないのに、ましてや観てもいないエヴァンゲリオンのことを思い出せるはずが…。
「ああ、いいんですよ。エヴァンゲリオンの中身に寄り添わなくても」

 私自身は、ヒットした後からもずーっとなんか申し訳ないなぁ、そのうち観なきゃなぁと思いつつ、結局はそのままにしたという負い目があったのだが、実はむしろ「観ていなかったからこそ」ああいう詞が書けたのらしい。
 そういうふうに言われて思ったのだが。もし観ていたなら、またどっぷりとあの世界に浸かっていたなら、もっと「エヴァンゲリオンを説明する」詞になっていたかもしれないな。
 だから、今回の新曲に関しても、やっぱりあんまりエヴァンゲリオンや綾波レイのことは慮らずに、書きたいことを書かせてもらった。

 タイトルは『天国の記憶』である。
 そして、私がエヴァンゲリオンを観ずして主題歌を含め何曲も書いてきて、さらにはうんと大はずしもしなかったのは、もしかしたらエヴァンゲリオンがコンセプトにしているものと、私が自分の中で重要に感じているテーマが同じなのかもしれないということに、曲を聴いてこのタイトルが浮かんだと同時に気付いた。

 私が常々自分の中に抱いているテーマ。それは「生きること」と「死ぬこと」である。
 私の詞をじっくりと読んでくれている人はおそらく気付いているかもしれないが、私が書くものには頻繁に「生きる」という言葉が出てくる。ほかに使える言葉があるだろうと自分でも時々思うのだが、どうしても「生きる」という言葉にこだわってしまうのだ。
 なぜならそれは、常に「死」と隣り合わせにある人間の、今できる最大限のことだから。人の命は刹那のものである。だからこそ、今をどう生きるかということを伝え続けたいと思うのだ。

 私自身は運命論者ではないし、死後の世界も生まれ変わりもほとんど信じていない。霊感もない。今この体でこの心で生きている自分自身がすべてだと考える人間である。
 だけど、生きていることはイコール生かされていることだとも思っていて、生きていること自体が奇跡なのかもと感じることも多々ある。
 そして、「どうすればうまく死ねるか」という思いを常に抱きながら、日々を重ねているのも確かだ。

 またしても拙著に書いたことではあるが、私のマネージャーだった人がキングレコードに打ち合わせに行ったとき、エヴァンゲリオンの音楽プロデューサーを紹介され、
「ほかの作詞家さんに決めていたけど、及川さんのマネージャーさんが来てくれたから、及川さんに発注するよ」
 そう言って受けてきた仕事である。
 ほんのささやかな偶然が生んだエヴァンゲリオンとの出逢いであるが、私はそれによってミリオンセラーを出し、新たな評価を得た。
 これも「生きている」ことの奇跡の一つである。

 ※新世紀エヴァンゲリオン10周年記念アルバム『NEON GENESIS EVANGERION DECADE』は、現在すでに発売中。




 
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