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2005年10月8日(土)
79.聞き上手、話し上手

「音楽に関してのノンフィクションを書いてみませんか?」
 以前そんな提案をされて、ノンフィクション好きな私としては大いにノリ気で企画書を書き、何人かの人にも取材をした。
 でもって、何人かの人と会ううちに気付いてしまった。
 私は、人の話を聞くのが嫌いだ。

 そもそも作詞なんていうのは、自己完結する仕事である。人(アーティストやディレクターなど)と会って打ち合わせをすることはあっても、一方的に相手の話を聞くばかりではなく、こちら側からも提案したり主張したり。互いに互いを探り合いながら、話を進めていくことが多い。
 インタビューというのはそれとは違って、相手が話しやすいように場や雰囲気を作り、いかにうまく本音を引き出せるかどうかが重要なポイントになってくると思う。
 私にはそれができない。って言うか、人の話を聞くよりも、とにかく自分のことを話したいのである。
 相手が聞いてくれるなら、いくらでも面白ことを話せるんだけれど、相手から面白い話を引き出せる自信はない。きっぱり。

「眠子さんは人の話をきちんと聞く人だよね」
「決して自分から、『私が、私が…』っていうような一方的な自己主張はしないよね」
 日頃はそんなふうに褒められている及川である。なのに、いざとなったら本性が出る。
 人の話を聞いているように見えるのは、単に笑顔で聞き流しているだけ。自己主張しないように感じるのは、興味がないことに突っ込んでいかない性格なだけ。
 現に人の言ったことは、ほとんど覚えていない。大事なことだけ、ウケる話だけを心にメモして、あとはきれいさっぱり削除する。

 そういや。振り返って考えてみれば…。
 私はたいてい自分から相手に話題を投げかける。まず相手に質問をすることで「私の考えに興味があるんだ」と思わせておいて、最終的には自分のペースに巻き込んでいく。それが私の基本的な手法である。
 つまり、相手の意見を聞きたいからではなく、自分がそのことについて話したいから、最初に相手に話題を振るということをするのだ。
 ま、早い話が、私って典型的な自分好き。自分の思いを伝えたい、ついでに相手を洗脳できればもっといい。洗脳できなくても全然OK。世界がどんなふうになろうと構わない。ステキなお城を建てて、1キロメートル範囲内で遊んでいたい、というタイプなのである。

 だから、ノンフィクションを書こうという野心はさっさと捨て去った。向いていないことにしぶとくチャレンジを続けるほど、私は愚かではないし暇でもない。人の話を聞かなきゃいけない「苦痛」になんて耐えたくない。
 だいたい地道に何かを作り上げる、ということ自体が無理なのである。どっかーんと花火を打ち上げて、気分が高揚しているうちにやり遂げちゃうというのが、私の性に合っている。
『人生は瞬間芸の積み重ね』
 おおっ、一句できたじゃないか。季語が入ってないけど。

 しかし、人に会うこと自体は好きである。人と話すのも楽しい。さらに、意見を求められたりすると、とても嬉しい。こっちがしんどくならない程度の悩み事なら、いくらでも相談に乗る。
 私のような大した人間でないところにも、たまにインタビューの依頼が来ることがある。ラジオやテレビ、トークショーのような時間が限られている場合は、言いたいことが全部言えないことも多いけど、インタビューだと喋れるだけ喋って、あとは先方がまとめてくれるので楽ちんだ。
 でも、時々インタビュアーがつらつらと自分の意見を語るということにも出くわす。そんなときはちょっとムカつくな。あなたは私の意見を聞きに来たのであって、私にはあなたの話を聞く義務はない、と思ってしまう。
 私がもしインタビュアーになったら、絶対と言っていい、そういうタイプになること間違いない。

 しかし、自分のことを棚に上げて言うけど。なかなか聞き上手な人って少ない。話し上手になるより聞き上手でいる方が労力を使わないと思うんだけど、そうじゃないんだろうか。
 私は決して話し上手な人間ではないが、サービス精神だけはたぶん人より旺盛で、欲しい情報はいくらでも与えるし、言っていいことならいくらでも話す。人に会うときはいつだって、私と会って「損した」と思わせないように工夫をする。また、土産(ほかの人に話せるようなネタ)まで持って帰らせるくらいの覚悟で挑む。それが話を聞いてもらう上での礼儀だと思っている。
 そんなとき、相手の人がとても上手に聞き役に徹してくれると、本当に嬉しい。あなたに一生付いていきます、と念書を書いてもいいとまで思える。
 私のようなタイプは、聞き上手というだけでイチコロである。

 おっ、また一句できた。
『保証人のハンコ欲しいなら聞き上手』
 だから季語を入れろよ。ってか。




 
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