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2005年10月2日(日)
77.ご趣味は何ですか?

「及川さんの趣味は何ですか?」
 このあいだ、人に訊かれて思わず戸惑ってしまった。
 はて…。私の趣味っていったい何だろう?

 趣味というのは基本的に「それで儲けるわけではなく逆に金をつぎ込むだけだけど、好きでたまらないこと」だと思う。日々一生懸命イヤな仕事をして、その息抜きやストレス発散のために打ち込むことでもあったりする。
 考えてみれば…。
 私は自分のいちばん好きなことを仕事にしてしまった人間なので、仕事以上に夢中になれるものってない。本を読むことや音楽を聴くことは好きだけど、それも言ってみれば仕事の一部。資料として捉えているところが大きい。

 また私の場合は、何か興味のあることを見つけると、それを仕事につなげていこうとする傾向が強い。せっかく趣味がきっかけでいろんな知識を得て、いろんな人とも出会ったんだから、金に換えなければもったいないと思ってしまうのだ。
 要するに、タダで何かをするという行為がイヤなのだろうと思う。金が絡んでくると、よけいに燃えるしな。

 私の友人で、いわゆる「趣味人」みたいな人がいて、その人生ほとんどを趣味に費やしているのかと思うほど、いろんなことをやっている。
 茶道やアロマテラピーの教室に通い、さらに手話も習い、海外・国内旅行なんてしょっちゅう、そして、月に何度かのゴルフも欠かさない。また、美味しいレストランやオシャレなスポットなどの情報にもめちゃくちゃ詳しい。本当にマメなのである。
 これが私なら、間違いなくアロマテラピーやゴルフグッズの店を持ち、茶道教室を開いちゃう。豊富な旅行経験やボランティア活動をテーマに本を出そうと、出版社に営業しまくるだろう。
 でも、彼女はそうじゃない。
「私、習い事が好きだから」
 というところで止まるのだ。純粋にその道を極めようとしている感じ。私のように、すぐそれで儲けようという行動に走ったりしない。

 興味があるから始めてみたくなった。というのは誰でも同じ。ただ、私は興味があって始めたのに、すぐに飽きてしまう。クレー射撃も鮎釣りもマウンテン・バイクも、あっと言う間にやらなくなった。
 自分の人生において何年間も持続しているものはただ一つ、仕事だけなのである。

「趣味を持っていないと、老後が寂しいよ」
 という話はよく聞く。
 仕事一筋に来たオヤジが定年退職して、でも今さらこれといって打ち込めることも見つからず、日がな一日ぼんやりと家で過ごし、そのため女房には疎んじられる羽目に…。なんてのはよくあることだしな。
 でも、私のような職業は仕事が来なくなることはあっても、定年退職というものがない。ボケるまではものを書いていられるだろうし、いざボケてしまえばもう趣味どころじゃないしって思っちゃう。
 まるで人生の節目がないみたいで、だからよけいに厄介だったりもするのだが。

 ふと思い出してみれば、同業者の間であまり趣味の話をしたことがないなぁ。夏は毎週キャンプに行ってとか、このあいだ久しぶりにテニスをして…みたいな話はしても。
 また、じっくり改まって、
「あなたの趣味は何?」
 と人に訊いたこともない。それよりも仕事の話に終始することが多い。音楽以上に好きなものがないから音楽業界にいる人が大半だし。

 好きだけど仕事にはしない。また、好きだからこそ仕事にはしたくないってのが、趣味ってやつなんだろう。
 そういや。私は洗濯するのがかなり好きである。人に食べさせるために料理するのも結構楽しい。でも、クリーニング屋や料理人になりたいかと訊かれれば、間違いなくなりたくないと答える。かと言って、じゃあ洗濯や料理が趣味なのかと訊かれると、やっぱり違うと答える。
 趣味と呼べるラインってどこにあるんだろう。

 今まで私は時間がちょっと空くと、一人でも旅行に出掛けていた。だから、自分の趣味は唯一旅行なのだと思っていた。でも、最近それも違うと思い始めたのだ。
 3年前トルコに家を買って、それ以来トルコでは旅行者でありながら居住者でもあるという感じになった。いつも決まったスーパーに買い物に行き、見知った人には挨拶をして、暇なときには家でごろんごろんしていて…、と東京での生活とほとんど変わりなく過ごしている。そして、それが非常に心地いいのである。
 そのことで私は、旅人と言うか放浪者には絶対になれないと悟ってしまったのだ。

 それまでも旅行したときにいつも頭の中にあったのは、
「ここは私が住めるところだろうか?」
 ということであった。つまり私は単に旅を楽しむのではなく、自分が暮らしたい場所を探すために、いろんなところに行っていたのだと気付いた。
 バックパッカーたちのようなディープな旅をするでもなく、中高年の人たちのように団体ツアーでパワフルに観光するわけでもなかった私の旅行は、考えてみれば「旅が好き」という感覚とは、やっぱり違うのかもしれない。
 そうなると、いろんな国に家を買うのが趣味、とするしかないなぁ。

 しかし、私の友人のように、夢中になれるものをいくつも持っている人生を想像したとき。
 まず、忙しいだろうなぁ、そういうのもまた大変だろうなぁという思いが先に立つ。憧れたり感心はしたりするけれど真似してみたいとは思わないのは、やっぱり基本が無精だからである。
 怠惰な人間には、趣味を持つこと自体向いていないのかも。




 
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