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どうにも変わった名前のせいか、それとも呼びやすいのか、私は初対面の人からも姓字ではなく「眠子さん」と名前で呼ばれることが多い。
音楽業界はなぜか、ディレクターやマネージャー以外の女性は名前で呼ばれる人の方が多数である。私自身も女性の歌手やタレントを呼ぶときはほとんど名前。大橋純子は「純子さん」、相田翔子は「翔子ちゃん」、鈴木早智子は「さっちゃん」というふうに。姓字で呼ぶ場合ももちろんあるけれど、女性の場合は極めて少ない。
と言うより音楽業界においては、姓字の方が印象深い人は姓字で、名前の方がインパクトがある人は名前で、というふうに自然に分けているみたいだ。だから、男性でも名前で呼ばれている人も結構多い。
さらに、同じ姓字の人も多いので、混乱しないようにしているってのもあるんだろう。
私が12年間所属したフジパシフィック音楽出版にも、私が所属する前から社員に「及川さん」がいたので、あとから来た私は自然に「眠子さん」と呼ばれるようになった。
そういや。マネージャーに電話したとき、「及川です」と名乗ったら誰宛てかも訊かれずに、そのまま社員の及川さんのところに回されたこともあった。どうも及川さんの奥さんと間違われたようで、それ以来「及川眠子です」とフルネームを名乗っていた。
しかし、友だちでもないのに名前で呼び合うというのは、普通の会社ではあまりないみたいだ。
私のホームページを運営してくれているモロハシさんは、私のことを「及川さん」と呼んで、それはそれでべつに抵抗はないのだけど、
「自分より目上の人を、名前で呼ぶのは失礼だと思って…」
という理由を聞いたときに、なるほど、きちんとした業界の人たちはきっとそれが普通なんだろうなぁと思った。
きちんとしていない音楽業界では、私は十代の子たちからも「眠子さん」呼ばわりである。まぁ「眠子ちゃん」と呼ばれないだけマシだが。
あと、周りがみんなそう呼ぶので、同じように呼ぶってのもあるんだろうと思う。最初はおずおずと「及川さん」と呼んでいても、そのうちみんな「眠子さん」に変わっているし。
だけど、同じ音楽業界でも演歌の世界は、どんな新人であっても作詞家は「○○センセイ」という呼ばれ方である。ポップス系はそれこそ筒見京平さんや阿久悠さんくらいのクラスにならないと、なかなかセンセイとは呼んでもらえないのに。
ましてや、私のように未だ下っ端(新人の作詞家が出てきていないので、私の世代の作詞家はいつまで経っても「ベテラン」にはなれない)の人間をセンセイと呼んでくれるのは、JASRACや出版社の担当者くらいである。
あまりに呼ばれ慣れていないもので、たまに歌手から「及川センセイ」と呼ばれると居心地の悪い気分になり、
「いや。及川さんか眠子さんで結構です」
と自ら要求することに。
以前、ある演歌歌手のアルバムの仕事を手掛けていたとき。ディレクターは演歌世界の法則に則って、私のことを「眠子センセイ」と呼んでくれるのだけど、同年代であるものだから、
「眠子センセイ。それでさぁ…」
とタメ口である。タメ口をきくのならセンセイと呼ぶなよ、と思ってしまったこともある。
また逆に私は、呼び捨てにされることはほとんどない。古くからの友人以外だと、「眠子ちゃん」と呼ぶ人もかなり稀である。たぶん仕事関係では10人もいないんじゃないかな。新人の頃から今までも、ずっと「眠子さん」なのである。
ただ、私は自分のことを名乗るときは「及川」と言う。自分ことを書くときも「及川は…」である。
「眠子でぇーす」と言って電話をかけないし(恋人にも友人にもそう名乗ったことはない)、自分のことを「眠子たんはね…」などとは言わない。小倉優子じゃないんだからさ。
また、人から「眠子ぴょん」や「眠子たん」などと呼ばれたら、絶対に返事をしてやらない。
プロダクションなどに仕事の電話を掛ける場合は、「及川眠子です」とフルネームを名乗るか、もしくは「作詞の及川眠子です」と説明付きで告げる。
だけど、世の中には「名前で呼ばれたがる」人たちもいるんだよなぁ。名前で呼ばれる方が可愛いとか、相手との距離感が狭まって気さくな関係になれるとかって理由なんだろうか。
ここは日本やど。
「○○でぇーす!」と電話をかけてくるだけならともかく、相手に「○○と呼んでね」と半ば強要しもする。しかもその○○に入る名前が、どこにでもある普通の名前だったりするもんだから、電話でいきなり名乗られるたびに混乱することに。
姓字は単に家系を表しているものだから血が通っていない感じがして、姓字で呼ばれるとまるで記号で呼ばれているみたい、という人もいた。でも私なんかは、名前そのもの自体が記号なんだし、人と区別が出来ればそれでいいじゃんと思っちゃうんだけどね。
…てなことを思っていた矢先、レストランをやっている友人に聞いた話。
なんとっ世の中には、ニックネームでレストランの予約を入れる人もいるらしい。これは及川の常識外のことであった。
「こんにちは! ミッチーでぇす!」
そういうことを言うのはジャニーズ系のアイドルか、チャットの中だけかと思っていたが、社会にもニックネームやハンドルネームを引きずっていくって何なんだ?
少なくともいい年をした大人のやることじゃねぇだろう、とつい思ってしまう及川は時代遅れなのか。
もいっかい言うけど、ここは日本やど。
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