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それこそ海のものとも山のものともわからないド新人の頃。いろんなディレクターのところに詞を売り込みに行ったわけだが、必ずと言っていいほど誰かと比べられた。
「ユーミンの詞に似てるね」
「中島みゆきの世界観と共通するところがあるよ」
要するに、「…みたいな感じ」と例を出して判断しなきゃ不安になってしまうのだろう。
「うーん。誰の詞に似ているかなぁ?」
などと私に訊く人までいた。
私は誰の真似もしていないつもりだし、誰かをお手本にして詞を書いている気持ちもなかったので、最初言われたときにはムッとしたけど、そのうち「あー、そうですか」みたいに適当に流すようになった。だって、みんな「似ている」と挙げる人が違うんだもん。
いちばん多かったのは、ユーミンと中島みゆき。次に阿久悠、阿木燿子、庚珍化、来生えつこ、売野雅勇などなど。その頃売れていた先輩作詞家の名前をいっぱい言われた。
ところが、私自身が売れた途端にぴたっと言われなくなった。本当に不思議なくらい。
今まで散々誰それに似ていると言っていたディレクターたちが、
「やっぱりあの詞は及川さんらしいね」
誰に何を書いても、及川眠子の世界だと言い始める。それはそれでおかしかったね。
私は気持ちを物に例える比喩が苦手で、だからそれを誤魔化すためにルビを多用した。
特にWinkでよく使っていた。「感染る」と書いて「うつる」と読ませたり、「思慕い」は「おもい」、「幻惑」は「ゆめ」、なんてこと。
それさえも及川眠子らしさだと言われたのにはビックリ。私はお遊びと誤魔化しのつもりだったのに、人はいいように解釈してくれる。
今ではほとんどルビは使わない。漢字も極力少なくする。その方が読みやすいかなーと思うし、あえてルビを使う必要性のあるシンガーにも書いていないし。
私の中でのWinkのコンセプトは、「都会の原色のきらびやかな世界を背景にした、女性のせつなさと情念」というものであった。画数の多い漢字を多用することで、そのきらびやかさを強調したのである。
だから、同じアイドルものでも、同時期に書いていたCoCoや早坂好恵の詞には、難しい漢字やルビはあまり出てこない。
そうやって自分の中で区別を付けていたのだ。
Winkも解散してずいぶん経ち、久しぶりに相田翔子と会って飲んだとき、彼女が「今だから言えるけど…」というような感じで、
「眠子さんの詞って、むずかしいーっ!」
と言っていた。
確かに、Winkに書いていた詞は難しかった。自分でも思う。漢字と新語の多用もさることながら、わざと抽象的にしてみたり、ひねってみたり。とにかく実験的と呼ばれるようなことを散々やらかしたから。
「支配」「無実」「いけにえ」「傲慢」なんていう、おそらく歌としてはものすごく不向きな言葉もばんばん使っていた。
よく許してもらえていたよなぁと、当時のプロデューサーに感謝するのみである。Winkという実験台があったからこそ、その後わかりやすいシンプルな言葉で書くことができるようにもなったのだ。
しかし、許されていた原因の一つには「歌いやすい」ということもあったからである。つまり、音のノリ方がいいということ。
「及川さんの詞って、歌いづらそうですよね」
このあいだも人に言われたのだが、そう思うのなら、私が書いた詞をカラオケで歌ってみてくれればわかる。たぶん音と言葉のあいだでの違和感はあまりないと思う。
わざと気持ち悪く言葉を当てている部分もある。そこはその言葉を強調したいがためという場合が多い。
たとえば、Wink『愛が止まらない』の「JIN JIN JIN、感じてる」なんて部分。歌いづらいだろ? でも、そこの歌詞が印象に残るだろ? そういうことだ。
歌いづらく思えるのは、詞だけを見ているから。及川の詞だけを見て判断すると、こんなに文字面が悪くて歌いづらそうなものはないぜ。
私は「歌」というものしか信じていない。詞の文字面がいくらよくても、歌は成り立たない。
今はほとんど曲が先である。その曲に合わせて詞をハメていく。「私はあなたが好きなの」ということを音に合わせて言うために、「好きなの、あなた、私は」というようなめちゃくちゃな文体にしてしまうことだってある。でも、それで気持ちよく歌えて人にも伝わればよし、なのだ。
そのやり方は、作詞を始めた頃から変わっていない。
ここ何ヶ月か前から、『Lyrics』のコーナーに載せるために、以前書いた詞をまたパソコンに打ち直しているわけだが、自分の書いたものを改めて見直して、ひどい文字面だなぁと呆然とすることも多々ある。やっぱり歌あっての作詞家だと、しみじみ思うのである。
また、自分で書いているくせに、私は未だに「及川眠子らしさ」がつかめない。たいして底の深い作家ではないはずなのに。
それよりも、どこかで私の知らない作詞家志望の人がディレクターに、
「及川眠子の詞に似てるね」
なんて言われているのかなぁ…。
大丈夫、売れたら言われなくなるから。それまでの辛抱。
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