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古い友人というか、お世話になった人が最近本を出した。
『ヒット学』というタイトルの本で、著者の吉田就彦氏はかつてポニーキャニオンでディレクターをしていたときに、まだ名もない新人だった私の作品を評価し、育ててくれた恩人の一人である。
その後彼はポニーキャニオンを辞め、インターネット・ビジネスの仕事を始めたため一緒に仕事をする機会こそなくなったが、今でも連絡を取り合い、たまには食事をしたりしている。
思えば、私がフジパシフィック音楽出版に所属するきっかけや大地真央との最初の出会いを作ってくれたのも彼だったし、また、私が初めてプロデュースを手掛けたのも彼が担当していた歌手だった。中山秀征や早坂好恵、岩井由紀子(ゆうゆ)など、いろんな仕事を一緒にしてきた。
私自身は彼との仕事ではヒットが出せず、フジパシフィック音楽出版所属後の初めての仕事『愛が止まらない』でどかーんと売れたわけなのだが、彼から教わったことはとても多かった。
コンペティション(競作)という方法に頼らず、作家を信頼し仕事を任せ、絶対に最後まで放り投げなかった。それは言い換えれば、自分の感性を信じることだったのだろうと思う。そして、それは「作家を大切にする」ということにもつながっている。
そうやって育てられた人間は、次に自分が人を育てる段になったとき、やはり人を大切にしていく。私は作曲家に曲を依頼するときに、絶対にコンペティションでは発注しない。
まぁそういう付き合いを続けてきた人でもあるから、やはり本(それもデビュー作)を出したとなると、やはり読まないわけにはいかないだろう。
で、読んでみたのだが…。
まず思ったのは、文中にとにかくカタカナが多い。
この本はヒットの方法や論理を謳いながら、基本的にはビジネス書である。たぶん「今どきのビジネスマン」に向けて書かれているのだと思う。
私は、ビジネス書は今までほとんど読んだことがなくて、だからほかと比べてどうということが明確に言えないのだけど、何だかビジネスマンってすごーく勉強しなきゃいけないんだなー、ってことを思ってしまった。
この本を手に取った人たちは、すんなりとこれらの言葉を理解できるのだろう。つまり、今どきビジネスマンは、この複雑なカタカナ言葉をちゃんと知っていなきゃいけないってことか。
わかりやすく話す。平易な言葉を使って書く。難しい漢字やカタカナ言葉はなるべく避ける。それらをモットーにしている私などは、すでにこの時点で失格である。ヒットを出すどころか、完全なデクノボウである。
カタカナ言葉を使うことを批判しているわけじゃないよ。
ただ、インタラクティブとかアドミニストレイターとかラポールとか、及川が一生使わないような言葉が次から次へと出てきて、ひぇぇーと思ってしまっただけである。
そう言えば。いつも思っていたことなんだが、制作畑の人たちって、音楽業界でも出版業界でもわりと好んでカタカナ言葉を使う人が多いなぁ。
「彼はクレバーな人だから」
彼は賢いよね、って日本語で言えばいいじゃん。
「事務所にスポイルされているんだよね」
事務所が甘やかしたお陰で、わがまま言い放題のこのくそガキがぁ、と言った方がわかりやすいと思うけど。
で、まぁそういったことは本の主題とはかけ離れていることなので、どうでもいいことなのだが、この『ヒット学』を読んで私が感じたことは、こういう本をお手本にしたり真似をしたりする人たちって、絶対と言っていいほどヒットが出せないだろうってことだ。
吉田氏が今まで作ってきたヒット作品をもとに、実に丁寧に分析され、ヒットを作るための理論も明確に組み立てられているけど、これは「彼の方法」であって、そのとおりにやれば必ずしも全員が成功するってことじゃないんだよね。
実はヒットが出せる人というのは、自分の中に「自分なりのヒットの理論」を持っている人だけだと思う。
私がそう言いきれるのは、かつて私がヒットを出した人間であり、さらにヒットを出してきた人たちを目の前でリアルに見てきたからである。
誰かの真似をするよりも、たとえ異端と呼ばれようと自分なりのやり方を貫いてきた人たちの方が、成功を収めることが多かった。ましてや音楽なんていう人の嗜好で成り立っている世界なんて、はっきり言って過去のマニュアルなんて必要ないのである。他人の方法を借りてやれると思うことの方が間違いである。
そういうことを言っちゃビジネス書の値打ちもなくなるってものかもしれない。でも、そういう意味でこの本はとても参考になる。
彼はこの方法でヒットを作ってきたが、これじゃない方法が何かあるはずだと考えるきっかけになるし、それを見つけられた人が新しいヒットを生むことになると思う。
言い換えれば、ヒットを作るには、自分自身で思考する力が必要だってことだ。
「どうしたらヒットが出せますか?」
とは、私も何度か聞かれてきたことである。
その度に、Winkのときはこうだった、やしきたかじんのときはああだったと説明をしてきたが、正直言ってそんなもの全部後付けの理屈である。
自分が書きたいと思うことを書いた。そして、それを受け入れてくれる人たちがいた。ヒットした理由なんて、たったそれだけなのである。
今ビジネス書はいろんな種類のものが出版されていて、どれも結構コンスタントに売れていると聞く。要するに、そういう本を必要としている人たちがたくさんいるってことなんだろう。成功を目指さないビジネスマンなんていないはずだ。
作詞家や作曲家たちも、当然ながら皆ヒットを出したいと願っている。
だけど、人に教わったとおりにやればヒットが出るとは限らない。だからこそ、ビジネスも音楽も面白いのである。
また、ヒントを得るために、ビジネス書の利用価値があると思う。
エラそうなことを言わせてもらえば、ヒットの快感というのはヒットを生んだ人間にしかわからない。また、ヒットの法則というのも、ヒットを生み出したその本人にしか適用しないのだ。
そして、ヒットなんて「まぐれに毛が生えたようなもの」だと、私自身はそう思っている。
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