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2005年6月5日(日)
42.おばあちゃんといっしょ

 母親と娘が連れだって海外旅行、というのが最近多いらしい。
 私の友人(特に独身女性)の中にもそういう人たちが結構いて、一度ならずもう何度も一緒に行っているという話を聞く。もちろんお父さんは留守番である。
 なんで母親と一緒に行くのかと言うと、気心がしれて楽だから。他人よりも気を遣わないってことが大きな理由になっている。さらには、母親がお金を出してくれることもあるからだそうだ。
 そういうのって、友達みたいな親子関係って言うんだろうなぁ。親友みたいなお母さん、ってところか。

 でも、私は絶対にダメだなぁ。ショッピングや食事さえイヤなのに、何日も一緒に過ごさなければならない海外旅行になんて勘弁してほしい。
 母親と一緒に行くくらいなら、こっちが金を払ってでも彼女の友達か妹たちと行ってもらう方がいい。事実、今まで旅行に行きたいと言いだしたときは、ずっとそうしてきた。

 しかし、今回。うちの母親がトルコに行きたいと言いだした。彼女にとって初めての海外旅行である。
 さすがにそれは一人で行かせるわけにもいかず、お供をすることに。私自身トルコで久々の観光客をしてきた。
 そして、もう二度と一緒に行くもんかとしみじみ思った次第である。

 イスタンブールからサフランボル、カッパドキア、パムッカレ、その後再びイスタンブールへ。世界遺産4カ所を車で廻るプライベート・ツアー。
 そのスケジュールをこなすだけでも大変なのに、金の計算や身の回りの世話なども全部やってあげなければならない。その上に、一人では何もできないくせに人に合わせられないという、年寄りの特権を振りかざされ、もうヘトヘトに疲れまくった。

 ちょっと歩くとすぐに「脚が痛い、座りたい」と言いだし、じゃあと喫茶店に入ると10分もじっとしていられず、勝手に外に出て土産物屋にふらふらと入っていく。そして、店員の薦めるままに物を買う。
 だけど、トルコのお金の単位が全然理解できないので、財布はこっちに預けたまま、必要なときだけ「お金!」と叫ぶのである。
 また、何か気に入らないことがあると、すぐに文句を言う。なのに、人の話は耳に入らないらしい。
 年寄りにも耐えられるスケジュールを立て、今日はこれこれこういう所にいくからと説明をし、さて車に乗ったら、
「これからどこへ行くの?」
 何も聞いていないのである。

 トルコは観光業で成り立っている国のくせに、まだシステム化がきちんとされていないことも多い。
 たとえばトブカブ宮殿。入場券と秘宝館を見るチケットは入口で買えるのに、ハレムへのチケットは中に入ってからじゃないと買えない。1時間に一度、ガイド付きのツアー形式になっていて、一度の定員が60人。さらには、そのツアーの始まる10分前にならないと、チケットを販売しない。つまり、誰かがハレムのチケット売り場の前に並んでいなければいけないのである。

 私たちが行ったのはちょうど土曜日で、人がいっぱいだった。2時間近く待たなければいけなくて(しかも雨の中)、結局うちのトルコ人がずっと並んで見ることができたのだが、
「ハレムはよかった?」
 出てきたあと、母親にそう訊いたら、
「ハレムって何?」
 と答えられてしまった。
「今見てきたところだよ」
「あー、あれね。よかったよ。きれいだった。…で、あそこは何をするところなの?」
 ガイドは英語とトルコ語で説明をしていた。母親は英語がまったくわからないので、私は逐次それを訳して彼女に伝えていたのだが…。やっぱり何も聞いていなかったようだ。

 すべてがすべてそういうふうに進んでいくものだから、たまにめちゃくちゃ腹が立ち怒ると、
「あんたは優しくない!」
 いかに私が思いやりに欠けるかというテーマで、45年の間にあった数々のエピソードを聞く羽目に陥る。
 しかし、私はもう年寄りなんだから、体力もないんだから…そんなことを涙目で訴えているくせに、土産物屋を覗いた瞬間にいきなり元気になるのって何なんだ。

 サフランボルの名物に「ロクム」というお菓子があるのだが、それを20箱も買いやがり、サフランボルで旅行代理店を営んでいるトルコ人と日本人の夫婦に、
「ロクムを20箱も買う観光客を初めて見た!」
 とびっくりされてしまった。
 ロクムは美味しいお菓子なのだが、とにかく重い。1箱500グラム以上ある。だから、みんな少量しか買わないのだ。それを20箱。10キロ以上の重さである。

 さらにそのあと塩を買い、瓶詰めの蜂蜜を買い、オリーブ石鹸を買い、チョコレートを大量に買ってくれた。全部重い物ばかりである。後先を考えていないというのは、こういうことである。
 帰りのバゲージを計ってみると、なんと18キロオーバー。トルコ航空のカウンターの人は何とか大目に見てくれてパスできたが、自分たちでバゲージを持つことが出来ず、タクシーの運転手に家まで運んでもらった。
「みんなに言うとお土産を買っていかなきゃいけないから、秘密で来たの」
 そう言ってたくせに…。みんなに言いふらして来たのなら、いったいどれだけ土産を買わなきゃいけないのだろうか。

 うちの場合は、お母さんと一緒に海外旅行という微笑ましさはまったくなく、ばあさんの海外旅行の介添えという感じであった。しかも身内だから、よけいに腹が立つ。
 その後、よっぽどトルコが気に入ったのか、また行きたいと言いだしている。今度は付き合わないよ、と釘を刺したら、
「大丈夫。一回行ったら、次からは一人で行けるから」
 その自信は相当なものである。
 遅すぎた海外旅行デビューは、今後花を咲かせるか。一人で行って少しくらいは苦労をしてほしいと、つい願ってしまう私である。




 
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