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私はここ何年かはほとんど一人で旅行に出掛けることが多い。一人の方が気楽だし。他人と何日も同じ部屋に泊まり、行動を共にするのって、すごく疲れるのだ。
それでも相手がまだ気を遣ってくれる人ならまし。中には人に合わせられない、かと言って一人では何もできない人もいて、そうなるともう地獄である。どんなに素晴らしい景色を見ても、日毎に早く帰りたいという思いだけが募っていく。
でも時には、人と一緒に来てよかったなぁと思うこともある。
私が旅行をする際の楽しみは、何と言っても食べることなのだが、一人ではちょっと入りづらいという店って結構多い。特にちゃんとしたレストラン。コース料理なんてのが設けられていて、それは大抵「二名様以上」となっていたりするのだ。
地元の人が行くような食堂や屋台なんてのは一人でも全然平気だけど、たまには気張ってフルコースなんかも食べたくなる。そんなとき一人だとやっぱりちょっと躊躇って、結局は店に入るのをあきらめてしまう。
安くてうまいものを見つけることは感動の一つである。だけど、そのことにこそ価値がある、なんて私は思っていない。また、しつらえのパック・ツアーで旅行したからと言って「旅の醍醐味を味わっていない」とも思わない。
その人たちに合った旅の方法を選べばいいだけだし、その方法に対して他人がああだこうだと言うのは変だ。それとも、ああだこうだと言いたいのだろうか。自分が誰よりも旅行通だと威張りたいがために。
東南アジアや中東では、よく日本人バックパッカーを見掛ける。私はヨーロッパやアフリカにはまだ行ったことがないけど、たぶんその地でもバックパッカーたちはうようよと生息しているのだろう。
1泊5ドルくらいの安宿に泊まり、すごい人となるともう1年以上そこで過ごしていたりする。
さぞかしいろんなところを見てきたのだと思いきや、観光客なら誰でも訪れるような有名な場所にさえ行ったことがないと言う。
「だって、入場料が高いんだもの」
でも、そういうものを見るために日本でバイトして金を貯めて来たんじゃないんだろうか。
じゃあ何をしているのと訊けば、一日中ホテルにいて、そこで知り合う人たちとダベっているか、本を読んでいるからしい。
「何のために?」
「情報交換」
何の情報交換だと思っちゃったよ。観光地に行かない買い物もしないのであれば、情報交換って必要なのか。
彼らにとって大事なことはたとえば、
「1日3ドルでいかに食欲を満たすか」
てなことだったりする。なるほど、そういう情報交換か。
以前、バックパッカーのカップルと話をする機会があったのだけど、いかにお金を使わないで毎日を過ごすかについて、延々と語ってくれた。またそのときに、1ドル以下で食べられるハンバーガーの店の情報も教えてもらった。
じゃあねーと、その二人と別れたあと、一緒にいた現地の人間が、
「俺たちだって2ドル以下のハンバーガーは食わないよ。だって、安い店は肉が古いに決まってんじゃん」
安い店があるのは知っている。でも、あの店のものを口にしないのはマズいから。それをただ安いというだけで喜び、知ったかぶって現地の人間に吹聴する軽薄さ。
日本人ってのは、真面目で働き者で賢い人たちが多いと思っていたけど、そうでもないんだなと笑っていた。
しかし、それも彼らの旅の方法だと私は思う。若いからやっていられるんだなぁって感じるだけだ。
でも、もう若くない私にはできない。今まで一生懸命(でもないか)働いて稼いだ金を、食べることや観光や買い物に使うためにここに来た。また、そのために働いてきたのだとも言えるから。
それに、日がな一日ボーッとしながら時間を潰していられるほど、私にはもう時間が残っていないのだ。
パック・ツアーで来ている初老の人たちのグループが、あれを見てそれをしてここにも行って、という恐ろしいまでの過酷なスケジュールをこなしているのを見ると、みんな元気だなぁと感心する以上に、人生の残り時間が少ないから旅行も急ぎ足でやんなきゃね、と思ってしまう。
ベトナムからタイに移動する途中で、私とは逆に、今までタイにいてこれからベトナムに入るんだという若い女の子と話をすることがあった。
「ベトナムでは友達ができましたか?」
と訊かれ、その質問の意味がわからなくて聞き返した。
彼女はタイにいるあいだ、ずっと日本人バックパッカーたちが集まる場所に通い詰め、何人もの人たちとアドレス交換をしたと言っていた。日本にいる日本人は面白い人が少ないけど、旅行先で出会う人たちは変わった人たちばかりで話していても楽しいですよね、と。
「さぁ…。私はそういう場所には行かなかったし、ずっと観光と買い物だけをしていて、夜もホテルから出なかったから」
そう答えると、彼女はちょっと私を見下げるように、
「そうですか…。せっかく旅行をしているのに、友達ができないんじゃつまらないですよね」
と言った。私はあえて反論もしなかったが、日本人の友達なら日本にいっぱいいるわい。おまけに、そいつらはおもろい連中ばかりじゃ。そう胸の中で呟いていた。
彼女の旅はきっと日本という現実からの逃避なのだろう。彼の地にいる自分が真実の姿なのだろう。
でも、それも旅行のあり方の一つだと思う。
ところで。
野菜は年中同じものがあるが、果物は季節によって違う。夏の終わりから秋にかけて、トルコではイチジクが出回るのだけど、これがほんとにうまい! 特にイズミール産のもの。1キロ100円くらいである。
夏の終わりから秋にかけて、のみである。
絶対に次はその時期に行こうと心に決める及川。私の「旅の価値」はそんなところにある。
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