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2005年5月3日(火)
34.古着のゆくえ

 洋服を買い続けていれば、次に問題になるのは、もう着なくなった洋服をどうするかである。
 それこそ穴が開くまでボロボロになるまで着倒せば、何の惜しみもなくゴミに出せるのだが、そこまで着るのはせいぜいパジャマくらいである。
 大抵は何度か着たあと飽きてしまい、そのままクローゼットの奥深く眠ることに。何年か後にそれを引き出してまた着るなんて、滅多にないことである。
 また、去年はよそ行きとして着ていたものが、今年は普段着として着るかというと、そうでもない。よそ行き用に買った服は、やはり普段着として着るには着心地がよくない。ハイヒールを履いて、近所のスーパーマーケットに買い物に行くかというと、そうじゃないのと同じである。

 もう何年もクローゼットにしまい込み、たぶん二度と着ることはないだろうなという洋服は、結局誰かにもらってもらうことになる。
 しかし、この「誰かにもらってもらう」ことが、とても難しい。
 絶対に着ない人に投げやるほど私はバカじゃないし、そんなもったいないことはしたくない。やはりあげた洋服とて、着てもらえれば嬉しい。もっと言えば、大切に着てくれる人にあげたいものだ。

 私は人にあげるときも、いつもきちんと丁寧にたたんで持っていく。それが人にものをもらってもらうときの礼儀だと思っているからだ。
 でも以前、それを広げて見たあとで、ぐしゃぐしゃにしてそのまま袋に突っ込んで持って帰った人がいた。きっとその人は、家でもこういう仕舞い方をしているんだろうなぁと思って、それ以降はあげるのをやめてしまった。
 人にあげたものは、あげた時点でその人のものになるから、そんな細かいことをぶちぶち言うのなんてイヤラシイと思うかもしれないが、そのときあげたものは特に愛着があった洋服なだけに、乱暴に扱われることにすごくせつなくなってしまったのだ。
 着るものになんてまったく興味がないよ、という人にはきっと理解できないことなのかもしれないけどね。

 私はほんとに洋服が好きで、また、洋服を買うこと自体に幸せな気分になれるから、何かあるたびに洋服を買っている。そこそこ金もかけている。
 そんな着道楽の私であるから、着なくなった洋服を欲しがってくれる人も多いのだけど、サイズが合うからとか、たぶん似合うだろうからとかで、安易にもらってもらったりはしない。
 だって人にものをあげることは、ともすれば失礼な行為にもなりかねないから、一応それなりの気は遣う。
 だけど、もらってくれる人も人それぞれで、気を遣ってくれる人とそうじゃない人がいる。

 新しい洋服を着ていくたびに、
「あら、それいいね。着なくなったらちょうだいね」
 と言う人がいて、何度か彼女にあげたことがあった。
 いつものようにきちんとたたんで、袋に入れて持っていくのだが、彼女はいつだって袋の中の洋服を見ようともせずに、そのまま持って帰る。中身を見るときがあっても、せいぜい袋の口から覗いて見るだけ。
 人の目のあるところで洋服を取りだし、体に当ててみるのもきっと恥ずかしいだろうと思ったので、私も特に咎め立てもしなかった。ただ、
「もし気に入らなかったら返してくれていいからね」
 いつもそう言って渡していた。
「大丈夫よ。着るから」
 彼女の方もそう言うのだけど、次に逢ったときに、
「あのさぁ。このあいだもらった服だけど、着てみたら全然似合わなかったから、弟の嫁にあげちゃったわ」
 そう言う。気に入らなかったら返して、と言っていたにも関わらずだ。
 一度ならず二度三度同じことがあったので、それ以降はやはりどんなに欲しいと言われてもあげなくなってしまった。

 その後、彼女と洋服のことで話をしていたときのこと。
 仲良くしている年下の女の子に、いつも着なくなった洋服をあげていたんだけどね、というようなことを彼女が言いだした。
「いつもその子に私のお下がりをあげて、大事に着てくれていると思ってたら、このあいだその子がさー、言うのよ。やっぱり人にもらった洋服って着ませんよねぇ、だから結局はまた誰かにあげちゃいますよねぇ、って。じゃあ今まで私があげてたのは何だったのよ。あげた服を全部返してよって、ものすごくムカついちゃったわよ!」
 私は、その言葉をそのまま彼女に返したかった。自分がやっていることと同じことを、人にやられると腹が立つってか。
 人のふり見て我がふり直せない、というのはこういうことなんだねぇ…。

 たかが洋服。だけど、それを買った本人にとっては、様々な思い入れがあったりもする。いらないからあげるんじゃなくて、できれば取っておきたいけどもらってもらう、ということだってあるのだ。
 だから私自身は、私のために買ってくれたものならともかく、その個人の使っていたものをもらうということにすごくためらいがある。それはべつに洋服だけに限らない。
 人のものをもらうということは、時にはその人の思い出をも背負うことになるからね。

 欲しい欲しいとねだって、私の洋服を持って帰り、
「フリーマーケットに出したら、千円で売れちゃった!」
 と言うヤツもいた。もしやその千円を私にくれるのかと思いきや、
「儲かっちゃったー!」
 と無邪気に喜んでいる。
 もらったものは私のもの。だからどうしようが私の勝手。というのもアリなのかもしれないが、せめてそれをあげた本人にバカ正直に教えるな、と言いたくなってしまった。もう少しくらい配慮というものがあっても、罰は当たらないだろうに。

 人にものをあげるのは難しい。




 
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