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2005年4月30日(土)
33.着道楽

 私は洋服が好きである。
 特に40歳を過ぎてからは、そこそこオシャレに見えて着ていて楽、というのを基準に選んでいる。

「オシャレとは、イコール我慢なのよ!」
 そう自分に言い聞かせつつ、ウエストがぎゅっとしぼった服を無理矢理に着て、痛い靴を泣きそうになりながら履き、一生懸命頑張っていた時期もあった。
 しかし、本人は「ファッショナブルな私」を演出していたつもりでも、今改めてあの頃の写真を見てみると、どうゲタを履かせてもいいとこ錦糸町のキャバクラ嬢である。下手すると、地方の温泉を回る大道芸師のようである。

 それが自分でもわかったのかどうか、最近では着心地いちばんに考えるようになった。そんでもって、買う店もほとんど同じである。あまり他の店には行かない。今まで数々の冒険をしては、結果失敗に終わった経験を踏まえているからである。
 さらには、すっかりおばはん体型になり、どう飾ってもファッショナブルにはほど遠くなったという理由もある。

 しかし、一応どんなものを着るかにはこだわる。自分なりの基準を持っている。
 先に挙げた着心地がいい、そこそこオシャレに見えるということとともに、デザイン性があるもの、という条件が付く。要するに、ちょっと変わったデザインのものである。
 その「変わったデザインの部分」に、人の目が行くようにという自分なりの配慮と願いが込められている。

 たとえば、黒やグレイのすごーくシンプルなスーツやワンピースだと、着ている本人の資質が問われる。スタイルもいい、上品な女性がシンプルな洋服を着た場合には、ゴテゴテした派手なものを着るより、その人自身が美しく見えたりする。
 しかし私の場合、シンプルな洋服を着れば着るほど、垢抜けなさが突出してしまうのである。

 以前、お店の人に薦められたスーツがあった。トラサルディーの黒のオーソドックスなデザインのものであった。
「絶対似合わないよ」
 そう言ったのだけど、とりあえず着てみてと向こうも譲らない。すごく形が綺麗だし、品が良く見えるからと。
 じゃあそんなに言うのなら、一応着てみましょうと試着室に入った。で、試着して出てきたあと、お店の人に向かって、
「ね。彼氏いない歴40年の郵便局員みたいでしょ?」
「…ほんとだ。それ買わないでね!」
 自分で薦めておいて、ひどい言いようである。
 しかし、ほんとにそうで、シンプルで上品なスーツは、私が着ると郵便局の制服にしか見えなくなってしまうのだ。

 また、かと言って華やかな洋服を着ればいいというものでもない。
 私がシャネルスーツを着ると、参観日のお母さんになってしまう。もしくは、組関係の人の情婦である。お母さんと情婦じゃ全然違うじゃんと思うだろうが、これが私の中ではなぜか見事に結びつくのである。
 膝丈のスカートのスーツを着ると、よく見えて草の根運動から上がってきた社民連系の立候補者である。議員ではない。あくまで立候補者なのである。

 そして、極めつけはカジュアル・ファッション。本当に誰が見ても立派なおばはんになってしまう。まぁもともとがおばはんだから、しょうがないのだけれど。どんなにセンスのいいものを着ていようが、オシャレとはほど遠いところに位置してしまう。
 野良上がりに気張ってみたおばはん。国道沿いのパブスナックでテレサ・テンを歌いまくるおばはん。ファミレスで子どもの頭をはたきながら、ハンバーグ定食を食べているおばはん、にしか見えないのである。

 私は作詞家である。
 初対面の人に作詞家だと見破られたことは一度もないが、一応芸能界の端っこに身を置いている者ではある。流行だとかセンスだとか、そんなもので身を立てている人間の一人なのである。
 だから、せめて片田舎のおばはんイメージは避けたい。
 家にいるとき、仕事をしているときはべつにユニクロでいいし、宅配便の人やご近所の人に何と思われようが平気だが、表に出るとき、特に仕事関係の人に会うときはそれなりの見栄が必要なのである。

 んなもんで、今まで見てくれには気を遣ってきたわけではあるが、田舎者と思われたくないために頑張りすぎて、逆にはずしてきたとしか思えない。
 いろいろ考えた挙げ句の「変わったデザイン部分に目を行かせる作戦」ではある。
 果たして成功しているのか、陰で不評をかっているのかはわからない。わからないが、たぶんやっぱり作詞家には見てもらえないだろうとは思っている。

 そう言えば。以前ある人に、
「あのね。すごーく派手な包み紙の物が送られてきたとするよね。そうすると、最初はその派手さにびっくりするけど、包み紙を解いたらもっと派手な物が出てくると、包み紙の存在は忘れちゃうよね? 眠子さんは中身が派手だから、あまり外見のことを気にしない方がいいよ」
 妙な慰められ方をしたことがあった。
 中身が立派なおばはんなのに、せめて外見こそオシヤレでいたいわい!




 
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