及川眠子HOME
Diary INDEX 2005


<<前のページ | 次のページ>>
2005年4月27日(水)
32.バンドやろうぜ!

 私の世代は、ほんとにみんなギターが弾けるんじゃないかってくらい、フォーク・ソング・ブームの真っ直中に青春期を過ごしてきた。バンド活動に熱中した人たちもきっと多いはずだ。
 高校の学園祭ともなると、みんな体育館や音楽室でギターをジャカジャカ弾き鳴らし、
「いつかは東京へ行って、プロになってやるぜー!」
 そんな夢を抱いたものだ。中には本当に東京へ行って、バンド活動をしていた人たちもいる。
 特にあの頃は、バンドをやってるってだけで「カッコいいー!」なんて言われたりしたしな。

 だけど悲しいかな、実際にプロのシンガーやミュージシャンになれる人というのは、一握りもいないのである。大抵の人が夢半ばで挫折し、就職したり郷里へ帰って行ったり。
 夢を見続けるかそれともあきらめるか、その大きな節目となるのは、やはり就職であろう。大学卒業を間近に控え、さぁどうするよ。レコード会社にデモテープは送ってみたものの、色好い返事は返ってこない。このまま活動を続けていてもプロになれるという保証はないし…。

 バンバンの『いちご白書をもう一度』じゃないけれど、髪をリクルート・カットにし、「もう若くないさ」と周囲に言い訳をし、彼らはギターを置くのである。
 夢はやっぱり夢のままの方がきれいだよなぁ、プロになったらイヤな仕事もしなきゃいけないんだろうしさ、なんて言っちゃってね。
 そしてその後、日々の慌ただしさに追われ、ついでに結婚して子どももできちゃったりで、天袋の奥にしまい込んだギターの存在も、引っ越しするときまでコロリと忘れてしまうのである。

 ギターが弾けるから、歌が人よりうまいからと言って、決してプロになれるとは限らない。
 結局、今音楽で食っていけている人たちは、このときあきらめなかった人たちだけなのである。執着心も才能の一つ。人に何と言われようと貧乏生活をしようと、自分の道を貫いた結果である。

 しかし、忙しいながらも大した変化のない日々をおくり、気付けば早や20年。四十路もとうに越えた頃。
 平社員だった自分が課長に昇進したくらいで、あとはさして変化なし。女房はカルチャーセンターに通い、そこで知り合った友達と連日ランチや電話でお付き合い。今さらお父さんのことには興味を持ってさえくれない。
 子どもは子どもで、手が掛からなくなったのはいいものの、今度はお父さんを毛嫌いしだし、ほとんど口をきくこともなく、自分の部屋にこもってインターネットやらゲームやらに夢中。
 だったら不倫しちゃうぞ、こんな家庭なんて捨てちゃうぞ、と心では思ってはみても実際にやれる勇気なし。

 そんなお父さんたちが、ふと人生を振り返ったとき。自分にもキラキラ輝いていた時代があったことを思い出す。
「そうだ! バンドやろう!」
 最近では年賀状だけの付き合いになっている、かつてのバンド仲間。思いきって電話をしてみたら、みんな自分と似たような境遇にいる。でもって、やろうぜやろうぜで簡単に盛り上がる。
 そんな40代のお父さんたちが、私の周りでも増えている。

 今はそれなりに小銭もあるから、昔は買えなかったギブソンのギターも買える。アルペジオからもう一度、やってみたら案外体が覚えていた。数年前にタバコもやめたから、声の調子だって悪くない。
 お父さんたちは、どんどん調子に乗るのである。そして、もっと困ったことに、
「プロを目指す!」
 と言い始めるのである。

 髪の毛も薄くなって腹も出た、誰が見ても中年オヤジ。いったい何で勝負をするのか。
「俺たちだって、若いヤツらには負けてないさ」
 いや、今の時点ですでに負けてますけど、と思いつつ自作の歌を聴かせてもらうと、これがまたスゴい。
 ♪あじさいの咲く道で、君の手を握ろうとしたけれど、夕陽の赤さがじゃましたよ、なんたらかんたら… だけど一度だけでいい、君に好きと言いたくて、なんたらかんたら…
 気持ちは18歳の少年のまま。だけど、本人はオヤジ。自分で歌っていて気持ち悪くないかと、思わず問いかけたくなるような歌詞だ。
 要するに、バンドをあきらめた時点で精神年齢が止まっちゃってるのさ。年をとった分の「何か」が抜け落ちちゃってるんだな。

 確かに、桑田佳祐や矢沢永吉など、いい年をしたオッサンでありながら、決して若いヤツらには負けていないという人たちもいる。だけど、彼らと決定的に違うのは、桑田佳祐や矢沢永吉らは「音楽を続けてきた」人たちなのである。
 続けていくことで、時流を見る目も養われるからね。と言うより、感性なんて使わなきゃ古びるだけなのだ。
 過去の楽曲の焼き直しと言われようが、ちゃんとそこには「大人度」が加算されているのである。年をかさねた分の渋みもあるのだ。そして、時代も見据えている。

 お父さんたちはそういうことに気付かず、若い子にもウケたいから、若い子向きの歌を作ればいいと、とっても単純に考えている。それが思いっきり時代錯誤な方向に行ってることにも気付かない。
「ルックスでは無理だから、実力で勝負する」
 その実力も、今どきの若いヤツらに負けてまっせー、と言いたい気持ちを飲み込んで、
「ま、頑張って」
 励ますしかない及川である。

 青春よ、もう一度。夢に浸るのはいいけれど、やっぱり夢は夢のままで置いておいた方が、きっと傷も浅いよ。




 
最新情報 メール