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2005年4月23日(土)
31.経費で落とせるの

 先日、友人夫婦と外で食事をした。
 二人とも私より一回りくらい年下なので、まぁここはお姉様が払うのが一応の筋だろうと思って奢ってあげた。及川は太っ腹である。

「領収証を書いてください」
 レジでそう告げると、
「経費で落ちるんだ?」
 と訊く。そうだよと答えると、二人してすごーく羨ましそうに、
「いいなぁ!」

 …はて? 
 とりあえず接待交際費の名目で、会社の必要経費としては落とせる。だけど、私の会社は私が社長。さらには稼ぎ手は私一人。ってことは、この金はもちろん私の財布から出ているのであって、会社の経費で落とせても、身銭を切っていることには変わりはないのである。
 どこかの会社に所属している人間で、友人との飲み食いもその会社の経費で落とせるのなら、まさしく「いいなぁ!」と言われる状況なのだが、なんかそこらへんを誤解しているみたいだ。
 きっと「経費で落とせる」マジックにはまってしまっているのだろう。私の払った金を誰かが肩代わりしてくれると思っているようである。
 だけど、会社勤めしかしたことがない人にとっては、やっぱりそういった事情はわかりづらいのだと思う。

 このあいだ、日垣隆『売文生活』という本を読んでいたら、「フリーランスの1500万円の年収は、会社員にとっての600万円と同じくらい」てなことが書かれていた。
 フリーランスは交通費から取材費、資料費、接待交際費に至るまで、当然すべて自腹である。ましてや、日垣氏のようにジャーナリスト系の書き手であれば、一つの記事を書くためにかかる費用もバカにならないだろう。
 そういった意味で、フリーランス1500万円イコール会社員600万円、という図式になっているのだと思われる。

 私は以前、拙著『夢の印税生活者』に「私が1000万円稼いで、やっと会社員の600万円と同じレベルになる」と書いたことがある。
 現在、私の年収はだいたい2000万円強。しかし(かつて自分が書いたことを覆すようだが)、相変わらず年収600万円くらいもらっている会社員と同じであると思う。
 なぜなら、フリーランスではあるけれど、会社経営者になってしまったからである。要するに、私の年収はイコール会社の売り上げでもあるのだ。

 まったくのフリーランス、つまり個人であった場合、作詞家という職業は実はさほど経費はかからない。
 確かに、CD代や本代などの資料費や、交通費、接待交際費もそれなりにはかかってはくるけれど、「取材をしなければ書けない」「人に会わなければ話が聞けない」タイプの書き手と違って、作詞家は自己完結できる職種であるからである。

 私はCDをレンタルしたり、また古本を買ったりしない。お芝居やコンサートも、自分がスタッフの一員でない限りは、自分の金でチケットを買って行くことにしている。
 なぜなら、それがものを作る人たちに対する礼儀だからである。少なくとも、自分がそうやって身を立てている人間なのに、人に対しては印税も見料も払わないというのはおかしい。
 だから、たぶん資料費はそこそこかかっている。しかし言い換えれば、それを使わずにすませることだってできるのだ。
 まったく本を読まない作詞家、CDはすべてレンタルですませる作曲家を、私は何人も知っている。それで成り立つのかと言われれば、成り立つのである。
 もっと言えば、資料なんてなくても詞は書ける。
 また、接待交際費だって、ディレクターやプロダクションの人と飲み食いした場合は、大抵向こうが払ってくれる。スタジオに行く、打ち合わせに行くくらいで交通費なんてさほどかからない。設備投資費や消耗品費がすごーくかかっちゃって、なんて言う作詞家は嘘つきである。

 しかし、これが会社となるとまた違ってくる。
 私はうちの母親を社員にしているのだが、毎月ちゃんと給料を払っている。さらに、社会保険や厚生年金にも加入している。ご存じのとおり、これらは会社が半額負担である。私は経営者であるから、社員の分と会社負担分との全額を背負うことになる。これだけで毎月30万円以上かかるのである。
 また、会社となれば、税理事務所に顧問料も毎月支払うことになる。決算のたび、社員の確定申告時期のたび、また役員更新のたび、別に費用もかかってくる。
 自分の個人事務所を会社組織にしている人は、たぶん理解できるとは思うが、会社経営というのはそれなりに「物入り」なのである。

 でも、単純に年収2000万円という額面だけを聞いて、
「及川さんってお金持ちぃー!」
 と思ってくれている人の方が多くて、そういうことを言われてもなぁと、ムッとする気持ちを通り越し、逆に悲しくなってしまう。
「人のことをあーだこーだ言う前に、おまえがちゃんと稼げよ」
 そう思うしかないのである。
 だってさ。年収2000万円と言われるとスゴイと思うかもしれないけど、年商2000万円の会社って、弱小も弱小。潰れそうな感じさえしないか? 
 今の状況だと、おそらく年収1億円くらい稼ぎ出せば、本当にお金持ちらしい生活ができるのかな。

 そんなにしんどいんだったら、いっそのこと会社をたたんじゃえばいいじゃんと言われるだろうが、「作詞家でいたいが、作詞家だけでは終わりたくない」とずーっと思ってきた私は、やはり自分の会社があることにこだわっているところがある。
 まぁだから、自分のせいなのだ。自分で自分の首を絞めているというようなところ。
「お金持ちぃー!」
 と言われるたびに、
「ほんとはお金持ちじゃないんだけどなぁ…」
 そう思いつつ、でも説明するのも何だか面倒くさいし言い訳を並べているみたいに聞こえるので、ふんふんと適当にかわすだけである。

 あ、そう言えば。
『売文生活』には、クレジット・カードが作れない悲しきフリーランス(作家)たちの逸話も書かれていた。
 及川は「作詞家」の肩書きであれば、アメックス・プラチナもダイナースも取れるのに、「会社役員」の肩書きにしたらVISAの普通カードしか作れないと言われた。(ゴールドと普通カードじゃ、カードが持つ役割や有効性がまったく違ってくる)
 怒りまくってその申込書をビリビリに破って、「作詞家」でゴールドを取ってやった。
 フリーランスと会社経営者の、まるで立場が逆転したような例である。




 
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