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2005年4月20日(水)
30.聡明な女は

 かつて桐島洋子が書いたベストセラーに、『聡明な女は料理がうまい』というのがあった。
 私はこの本を読んでいないので、中身に関してはあーだこーだは言えないけど、このタイトルは秀逸だなぁと思った。ヒットしたのもうなずける。
 逆に言えば、アホな女は料理が下手なのかって考えて、ビビった人もさぞかし多かったことだろう。

 ところで。テレビはニュース以外ほとんどまともに観ない、そんな私がビデオ録画をしてまで観てしまうのが、テレビ朝日のバラエティー番組『愛のエプロン』である。以前は夜中にやっていたのだが、評判がよかったのか今やゴールデンタイムの放映である。
 観たことがある人なら当然知っているだろうけど、これは料理番組である。芸能人が何人か出てきて、毎回決められたメニューを制限時間以内に作るというもの。

 レシピはなく、誰かに教えてもらってもいけない。調味料はすべてラベルをはがされて置かれている(つまり、いちいち味見をしてチェックしなきゃいけないってこと)。そして、作らなきゃいけない料理が結構難しい。鯛のかぶと煮や鰻丼、ラザニア、はまぐりの潮汁などなど。時には居酒屋やレストランでしか注文したことがないようなものまで課題に出される。
 なので、とんでもない料理を作ってしまうタレントもいるわけだ。特にインリン・オブ・ジョイトイ。彼女が出演するときは、もう嬉しくて嬉しくて。
 このあいだも「イカの煮物」を作るのに、内臓を取らずにそのままぶつ切りにしたイカと鰯をグラグラ煮立っているお湯の中にぶち込み、さらに味付けには醤油やらオイスターソースやらをどっぱり。絶対に食えないようなものを作っていた。
 もちろんインリン以外でも、どえらいものを作り出すタレントはいっぱいいて、時にそれが主婦だったりお母さんだったりもする。

 しかし、番組を観ながら思うのは、たとえ作ったことがないようなものでも食べたことはあるだろうってこと。完璧とまではいかなくても、何度か食べたことがあるのなら、味覚を頼りにそれを再現するのは、めちゃくちゃ難しいことではないんじゃないだろうか。
 でも、そうじゃない人もいる。
 調味料には名前が書いていないから、塩と砂糖を、バターとホワイトチョコレートを間違えて入れてしまったというのもある。そういう基本はさておき、料理ってやはり想像力も必要なんだなぁと、あの番組を観て確信した。
 桐島センセイが『聡明な女は料理がうまい』と言ったのは、そこにあるのだろう。経験を積みかさねることも大切だが、想像力の豊かな人は料理の腕を確実に伸ばす。まぁ、その前に料理するのが好きということが、最も大切な条件なんだろうが。

 と、そんなエラソーなことを言いながら、及川は実は料理が苦手である。
 まったく作れないことはない。食べたことがあるものを、ある程度再現することもできる。
 でも、これは長年一人暮らしをしてきた人間に多いと思うのだが、要するに「手抜き」なのである。そして、手抜きは料理の腕を進化させない。

 誰かのために作るのなら腕をふるいもするが、自分だけが食べるものに時間や手間はかけない。
「うちはカレーはルーから作って、さらに3日間煮込むから」
 そう話していたタレントがいたが、やはり食べさせる相手があってのことなんだろう。
 明日の夜は打ち合わせが入るかもなぁ、明後日は何があったんだっけ、というような状況で、自分一人の口と腹を満足させるためにそこまでやろうとは思わない。また一人だと、買った食材を余らせる危険性もある。
 で、作るのはタマネギとニンジン、ジャガイモを入れて、インスタントのカレールーで味付けした「一人分」のカレー。わずか20分で出来上がりだ。
 とりあえず無駄をなくそう、栄養のバランスも考えよう、というのが筆頭に来て、あとはいかに手間を省くかということになる。

 しかし、そういうことを続けているうちに、手際だけは妙に良くなる。30分もあれば、3品か4品くらいの簡単な料理は作れる。
 私の友人で、肉を焼いて野菜サラダを作るのに2時間かかるという人がいたが、一人暮らしを始めた途端にどんどん手際が良くなったと言っていた。
 で、今はどんな料理を作っているのと訊いたら、面倒くさくてほとんど外食ですませてしまう。だけど、野菜サラダと肉を焼くのは早くなったよ、と答えた。まさに一人暮らしがはまるツボである。

 一人暮らしをするとみんなそうなってしまうのかと言うと、決してそうではない。たとえ食べてくれる相手がいなくても、必死で腕を磨いている人だっているだろう。
 逆に、専業主婦がすべて料理できるとも限らない。
 ある友人の家に2泊3日させてもらったことがあるのだが、3日間朝はすべてトースト(だけ)、昼はすべてチャーハン(だけ)、夜はステーキと野菜サラダ、というメニューであった。野菜サラダの中身もレタスと貝割れ大根だけである。
「いつもこういうの食べてるの?」
 と訊いたら、
「魚とか煮物とか嫌いだから」
 あっさりと答えられた。旦那さんが魚を食べたいときは、近所にある彼の実家に行くらしい。そういうとき彼女は一緒には行かず、一人でピザやスパゲッティーを食べると言っていた。

「せっかく食べてくれる人がいるのに…」
 きっと料理上手な人ははがゆくなることだろう。
 その人が聡明かどうか以前に、自分の嗜好を頑固に貫くかということも、料理には関係するみたいだ。




 
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