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2005年3月26日(土)
23.歯ざわり

 肌ざわりのいい男っているよなぁ。肌が合う、という言い方の方がわかりやすいだろうか。
 私の場合、男の肌はウェットであってはならないというのが鉄則だ。特に手のひら。じっとりと汗ばんでいる手の男とは、握手さえしたくない。ほどよくカサカサしている感じが好きである。
 だけど、鮫肌はイヤだ。あのプツプツザラザラした肌と自分の肌を重ねたい、なんて鮫肌フェチも世の中にはいるのかもしれないけど。…石鹸をつければ、よく泡立つかもしれない、なんてね。

 で、肌ざわりと同じくらい及川がこだわるのは、歯ざわりである。
 もちろん歯ざわりの場合は食べ物に限る。男の指や脚を囓って、こいつは歯ざわりのいいヤツだなぁなんてことは思わない。
 食べ物で大事なのはやっぱり味である。ちょうどいい塩加減とか、素材を生かした味付けとか。
 でも、味覚と同等に、もしくはそれ以上に歯ざわり、つまり食べたときに歯に当たる感覚って大切だと思っている。

 たとえば、天ぷらのレンコン。衣の下のレンコンの歯ざわりは、シャクシャクとあってほしいものだ。でも、あれが音もしないくらい柔らかくなるまで油で揚げられていたりしたら、興醒めになってしまう。
 それに、揚げたてのポテトチップス。もちろん袋入りで売っているお菓子じゃなくて、ちゃんとジャガイモを薄切りにして揚げたもの。
 あれも揚げたては、ポリポリととてもいい音がする。ちょっと時間が経つとすぐにしなっとなってしまうから、揚げたてのものを急いで食べる。口の裏側にポテトチップスの欠片が刺さろうが、歯の隙間に容赦なく入り込もうが、無心に食べ続ける。ポリポリポリポリ…、まるで猿のマスターベーションである。

 また、私は野菜スティックが好きである。大抵生のセロリ、キュウリ、ニンジン、大根に塩やマヨネーズが添えられている。口に入れ歯に当たるとき、その野菜によって歯ざわりや音が違うのである。それを楽しみなから、一つ一つ違うものを食べていくのだ。
 はっきり言って、野菜の味なんてどうでもいい。マヨネーズをつけちゃった時点で、マヨネーズの味しかしなくなるから。
 いったん口に入れたら、その後はなるべく手を使わずにモグモグやる。そうすると、前歯から奥歯に至るまでの野菜の音色がよけいに明確にわかる。
「あんたはまるで馬かウサギのようだ」
 そう言われながら、野菜スティックを食べる及川である。

 お湯でさっとゆがいた水菜、ごま油で軽く炒めたジャコ、生のミョウガ、キュウリの浅漬け、カッパえびせん、などなど…。
 歯ざわりがいいものはたくさんある。日本人に生まれてよかったと思える瞬間である。

 逆に、音がしない食べ物は味にしかこだわらない。
 たとえば、豆腐やじゅんさい。喉を通るときの触感も楽しいと言えば楽しいのだけど、
「ああっ、この喉ごしがたまらん」
 そう言いつつも、やはり歯ざわりよりは劣るなぁと思ってしまうのである。
 また、せんべいのように鼓膜まで響き渡る音というものちょっと…。歯を駆使しているみたいで、食べているうちにつらくなってくる。

 そういう及川が、もっとも苦手とする食べ物は生のリンゴである。まったく食べられないことはないのだが、ほとんどの場合お断りする。特にウサギさんの形に切ってくれているとき。
 リンゴ自体の味は嫌いではない。アップルパイやリンゴジュースも全然平気である。ただ、生のリンゴの歯ざわりがどうしてもダメなのだ。
 私にとっては生のリンゴ、それも皮まで一緒に食べたときの歯ざわりや音が、例えれば爪でガラスをキーッといわせたときの音と同じくらいにイヤな感じがしてしまう。
 よくテレビでリンゴをまるごと囓っているシーンが出てくるけど、もし私が女優で、もしああいう演技をしなければいけないとしたら、きっとその役を降りるだろうなぁと思う。女優じゃないので、そんな心配は必要ないが。

 ところで。去年の暮れから顎が痛くなった。
 歯医者で噛み合わせを調整したり、鍼をやったりしたんだけど、なかなか良くならない。で、たぶん顎関節症なんじゃなかろうかということで、大学病院の顎関節治療センターに行ってみた。
 顎が痛くなるということは、さまざまな原因があるらしく、その多くはストレスや生活習慣からだとのこと。

「薬を投与したりギブスをしなきゃいけないほど悪くなってませんからね」
 医者にそう言われ、とりあえず自然治癒を目指して生活改善をしていき、様子を見ようということになった。
 7時間以上寝ない、テレビを観ながらごはんを食べない、脚を組まない、頬杖をつかない…などの注意を並べていき、
「しばらく固いものは食べないでね」
 そう念を押された。パンでさえダメだそうである。

 さっき食卓に出されたゴボウを見ながら、これはきっと食べちゃいけないんだよなぁと、箸をつけなかった私である。ゴボウの歯ざわり好きなのに…。
 顎を鍛え直して、再度歯ざわりを追求したいと願うのみである。




 
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