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2004年5月5日(水)
10.人の悪意は事実を歪める

 こうも世の中が不景気だと、みんな仕事がなくて暇みたいで、さらにはそこに
嫉妬やひがみも絡んで、「なんでや!」と言いたくなるような噂が流れることが
ある。
 ま、それは不景気や音楽業界に限らず、人はとにかく噂が好きだ。
 しかし、自分と関係のない場所だけで噂を立てられるのなら知らないですむ
が、噂っつーもんはなぜかめぐりめぐって自分のところに届いてしまう。それも
下手すると原型を留めないくらいのかたちで。
 このあいだも、久しぶりに友人に電話したら、
「眠子さんは稼いだお金を全部トルコ人の男に貢いで、家まで建ててあげたっ
て、人から聞いたんだけど……」
 あらら。
 一応真実を言うと、私は現在トルコ国籍の人間と付き合っている。先のことは
わからないが、気持ちが盛り上がれば結婚する可能性もあるだろう。で、金は
確かに貸した。仕事を始めるために。貸したけど、あげていない。だから、期限
を決めて返してもらう約束になっているし、ちゃんとお互いのサインをした借用
書もある。

 いくら相手のことが好きでも、仕事は仕事、プライベートはプライベートと分け
て考えるのが私の主義。こっちも看板出して仕事をやってるんだ。自分の会社
を持って、銀行にも借金があって、さらには扶養家族もいる身。稼いだ金全部
つぎ込むわけがねえだろう。
 トルコのイスタンブールに家を買ったのは事実。でも、分譲アパートだ。「建て
てあげた」というのは間違い。もちろん私の名義になっている。
 みんな知ってるだろうが、たとえば家を留守にしている間も電気やガス、水道、
電話といったものの基本料金はかかってくる。止めることも出来るが、いったん
止めてしまうと、再開するときの手続きが結構面倒くさい。トルコだって同じシス
テムである。さらに、銀行引き落としにするためには日本と違って手間がかかる
ので、ほとんどの人が毎月ガスセンターや電話会社に現金を持って支払いに
行っている。
 もっと言うと、家というのは人が住まなくても汚れる。しょっちゅう掃除をして
換気をしなければすぐに痛んでしまう。
 そんな諸々の理由があって、私は彼に「私の家に住んでもらって」いるのだ。
 ってさー、だらだらと言い訳を垂れ流しているみたいでヤだよなぁ。つまり、
何が言いたいかと言うとだ、私は人にはそういう説明をきっちりしているのに
関わらず、口から口へと伝わっていくたびに、少しずつ事実がすり替えられて
いくってこと。
 ましてや、そこに悪意が混じれば、事実なんて物事の叩き台にしかすぎなく
なってしまう。
 私の友人など、ちゃんと仕事をやっているにもかかわらず「作詞家を辞めた」
って言いふらされていた。そのネタ元が誰なのかは知らないが、もし同業者だ
としたら相当おっかない。『敵』が一人でも減った方が都合がいい、というよう
な怨念が込められている感じがしてしまう。
 しかし、安易に噂を信じる方も信じる方だと思うのだ。
 以前「××さんには気を付けた方がいいよ」てなことを言われたことがあって、
へっなんで?と訊いたら、「彼女は人を利用する、とてもズルい人だから」とい
う返事が返ってきた。けど、××さんに何をされたのかを訊いても答えてくれず、
「とにかく仲良くしない方がいい」と言うだけ。
 友達くらい自分で選ばせろよと思いながら、まぁ忠告だけは聞いておきましょ
と心に留めて、××さんに会ってみると真面目な普通の人。その後も何度か
会ったけれど、利用されたというような意識は、少なくとも私の中にはない。
 人は人によって態度を変えるし、その人自身の受け取り方ももちろん違うから、
一概に「この人はこうだ」って決めつけられないと思うんだけどさ。
 で、その××さんに、噂をしていた人のことをそれとなく訊いてみたところ、
「二・三度会ったことはあるけど、よく知らないです」
 おいおーい! 誰かから聞いた話をもっともらしく伝えてくれたってことかい。
相手の人間性、言い換えれば自分の価値観を、他人からの情報だけで囲って
しまうって、あまりに浅はかすぎないか。
 誰だって噂は好きさ。面白おかしく大袈裟に言って、それがウケると結構快
感になってしまう。知らない場所で無意識に人を傷つけている、ってことから人
は逃れようのないことだとも思う。
 ただ、事実ってのは案外噂よりも複雑だったり深かったりするのだ。噂だけで
は決して伝わらない『理由』ってのがそこにある分さ。一瞬の面白さですべてを
捉えるのは楽ちんでいいのかもしれないが。
 浅はかなのも大変だよなぁ。




 
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